本日は、「経営力向上計画」のご説明をいたします。
前々回に説明した事業承継の5つのステップの中の3番目である「事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)」に関する具体的なアクションとなります。
中小企業の創意ある成長発展を支援するために中小企業等経営強化法という法律が制定されており、中小企業の経営力向上を目的とした様々な取り組みに対して支援措置が講じられております。その中の「経営力向上計画」は、中小企業の生産性向上のための法的な枠組みとなります。
(中小企業庁HP 経営サポート「経営強化法による支援」より)
「経営力向上計画」とは
「経営力向上計画」は、人材育成、コスト管理等のマネジメントの向上や設備投資などを行い、生産性の向上を図る取り組みにより、自社の経営力を向上させる計画です。認定された事業者は、税制や金融の支援等を受けることができます。
「経営力向上計画」認定の具体的なメリット
国から経営力向上計画の認定を受けた際のメリットは、主に税制措置、金融支援、法的措置の3つがありますが、これ以外に「事業承継・引継ぎ補助金」といった補助金等で採択審査の加点ポイントになり採択されやすくなるなどのメリットもあります。
それでは、主なメリットの税制措置、金融支援、法的措置についてご説明いたします。
1.税制措置
認定計画に基づき取得した一定の設備や不動産について、法人税や不動産取得税等の特例措置を受けることができます。
①法人税・所得税の税額控除
A類型:生産性向上設備 ※1
B類型:投資計画に記載された収益力向上設備 ※2
C類型:可視化、遠隔装置、自動制御化のいずれかに該当する設備 ※2
Ⅾ類型:修正ROAまたは有形固定資産回転率が一定以上の設備 ※2
法人税・所得税について、即時償却または取得価額の10%(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)の税額控除が受けられます。
※1工業会等からの証明書必要
※2経済産業局等の事前確認必要
②事業承継等に係る登録免許税・不動産取得税の特例
中小企業者等が適用期間内に認定を受けた経営力向上計画に基づき、合併、会社分割又は事業譲渡を通じて他の中小企業者等から不動産を含む事業用資産等を取得する場合、不動産の権利移転について生じる登録免許税、不動産取得税の軽減を受けることができます。
2.金融支援
政策金融機関の融資、民間金融機関の融資に対する信用保証、債務保証等の資金調達に関する支援を受けることができます。
金融支援の特例についての具体的な支援措置の一例は下記の通りです。
日本政策金融公庫による融資
経営力向上計画の認定を受けた事業者が行う設備投資に必要な資金について融資を受けられます。
中小企業信用保険法の特例
経営力向上計画の実行にあたり、民間金融機関から融資を受ける際に、信用保証協会による信用保証のうち、通常の保証とは別枠で保証や保証枠の拡大が受けられます。
3.法的支援
業法上の許認可の承継の特例、組合の発起人数に関する特例、事業譲渡の際の免責的債務引受に関する特例措置を受けることができます。
①許認可承継の特例
事業承継等を行う経営力向上計画の認定を受けた場合、その内容に従い、以下のいずれかの許認可事業を承継する場合には、承継される側の事業者から、当該許認可に係る地位をそのまま引き継ぐことができます。
旅館業/建設業/火薬類製造業・火薬類販売業/一般旅客自動車運送事業/一般貨物自動車運送事業/一般ガス導管事業
②組合発起人数の特例
組合の組成内容を含む経営力向上計画の認定を受けた場合、その内容に従い、事業協同組合、企業組合又は協業組合を設立する場合には、通常、最低 4 人必要とされている発起人の人数が、 3 人でも可となります。
③事業譲渡の際の免責的債務引受けの特例
通常、企業が事業譲渡により債務を移転するには、債権者から個別に同意を得る必要があり、この同意がない場合には、事業譲渡をした企業は債務を免れないこととなります。
事業譲渡を行って他者から取得する経営資源を活用する取組みについて計画認定を受けた場合、企業が債権者に対して通知(催告)し、 1 ヵ月以内に返事がなければ債権者の同意があったものとみなすことができ、より簡略な手続きにより債務を移転することができます。
経営力向上計画の制度活用の流れ
1.制度の利用を検討/事前確認・準備
税制措置、金融支援、法的支援それぞれについて、必要な要件や手続きを事前に確認しておきます。
2.経営力向上計画の策定
①「日本標準産業分類」で、該当する事業分野を確認します。
https://www.e-stat.go.jp/SG1/htoukeib/TopDisp.do?bKind=10
※上記サイトで自社の事業分野を検索してご確認し計画書に記載します。
② 事業分野に対応する事業分野別指針を確認します。
「事業分野別指針」が策定されている事業分野(業種)については、この指針を踏まえて
策定する必要があります。策定されていない事業分野は「基本方針」が別途示されていますので、この「基本方針」に基づき策定します。
③ 事業分野別指針を踏まえて経営力向上計画の策定します。
3.経営力向上計画の申請・認定
①各事業分野の主務大臣に計画申請書(必要書類を添付)を提出します。
②認定を受けた場合、主務大臣から計画認定書と計画申請書の写しが交付されます。
※申請から認定まで約30日、複数省庁にまたがる場合は約45日が目安。
※不動産取得税の軽減措置又は許認可承継の特例を利用される場合は、上記の日数に加えて、関係行政機関における評価・判断に日数が必要
申請書様式について
経営力向上計画の申請書は3枚程度で具体的な内容は下記の通りとなりますが、策定にあたって事業分野別の指針に基づき実施する内容を記入するような様式になっており、難しくはありません。
①企業の概要
②現状認識
③経営力向上の目標及び経営力向上による経営の向上の程度を示す指標
④経営力向上の内容
⑤事業承継等の時期及び内容(事業承継等を行う場合に限る)
※現状認識のところで自社の経営状況を記載する欄は前回紹介したローカルベンチマークの結果を記入するようになっています。
認定を受けられる特定事業者について
認定を受けられる「特定事業者等」の規模は「中小企業等経営強化法第2条第6項」に定められており、下記の事業者が対象となります。
・会社または個人事業主
・医業、歯科医業を主たる事業とする法人(医療法人等)
・社会福祉法人
・特定非営利活動法人
更に、従業員数2,000人以下という規定があります。
※ 従来対象とされていた「中小企業者等」に該当し、特定事業者等には該当しない場合
(資本金10億円以下かつ従業員数2,000人を超える場合)も、令和5年3月31日まで
は「特定事業者等」とみなして経営力向上計画の認定対象となります。
注意事項
税制措置・金融支援によって対象となる規模要件が異なりますので、詳細は、中小企業庁発行の別冊「支援措置活用の手引き」をご確認下さい。
まとめ
「中小企業等経営強化法」における「経営力向上計画」は、計画の認定を受けることで、新しい設備の導入をする際の法人税や、事業承継にかかる不動産取得税の節税、金融支援や法的支援などが受けられ、中小企業の経営力強化に役立つ制度です。計画の策定も事業分野別の指針に基づき作成すればよく、計画策定のハードルも低いと考えます。
ただ、計画策定においては、前回ご紹介したローカルベンチマークを通じた財務分析、非財務分析における自社の現状分析および把握、経営課題の設定、対応策の検討を踏まえて、この「経営力向上計画」を策定することが大事になります。
さいきコンサルティングでは、事業承継における問題解決はもちろん、その前段階の経営課題の解決のご支援も行います。事業承継および経営革新に関するご相談はお気軽にさいきコンサルティングまでお願いします。
次回は、「中小企業等経営強化法」における「経営革新計画」についてお伝えします。
それでは、また。