本日は経営者保証について確認していきます。
事業承継において後継者が経営を引き継ごうと思ってもなかなか踏み切れない要因は経営者保証の問題です。これに関しては、親族内承継はもちろん従業員などへ引き継ぐ第三者承継においても一番問題となる点ではないでしょうか。事業承継に伴い個人保証まで承継すると、万が一、会社が倒産した場合に、経営者個人が企業に代わって個人の資産などで返済することになるからです。円滑な事業承継の実現に向けては経営者保証を外すことが必要となります。
本日は経営者保証の解除に向けて、そのベースとなる経営者保証ガイドラインを確認していきます。
経営者保証について
経営者保証ガイドラインの確認の前に、まず「経営者保証」について確認していきます。
「経営者保証」とは、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者個人が会社の連帯保証人となることです。これにより、万が一企業が倒産して融資の返済ができなくなったときには、経営者個人が企業に代わって返済する必要が出てきます。
では、この連帯保証人とはどのようなものでしょうか?
保証人と連帯保証人との違い
連帯保証人を確認するには、保証人と連帯保証人との違いについて考えてみると分かりやすいです。保証人と連帯保証人との違いは、それぞれが持つ権利と義務となり、保証人よりも連帯保証人の方が責任は重くなります。
それでは保証人と連帯保証人の民法上の違いについて確認します。
具体的には、下記の3点の違いがあげられます。
- 催告の抗弁権(民法第452条)
- 検索の抗弁権(民法第453条)
- 分別の利益(民法第456条)
「催告の抗弁権」とは、お金を貸した人(債権者)が突然保証人に請求をしてきた場合、「まずは主債務者(お金を借りた人)に請求をしてください」主張する権利のことです。
「検索の抗弁権」とは、主債務者に支払わせることを主張する権利です。主債務者が返済できるお金や資産(=資力)を持っているにもかかわらず返済を拒否した場合、主債務者に資力があることを理由に、債権者に対して主債務者の財産から返済を受けるように主張することができます。
「分別の利益」とは、保証人が複数いる場合、保証人はその人数で割った金額のみを返済すればよいという権利です。
これらの権利ですが「保証人には認められていますが、連帯保証人には認められていない」ということが違う点となります。
経営がうまくいかず倒産となった場合、経営者個人で所有する資産を処分して返済に充て、不足する場合は、働いて返済しなければならなくなります。その金額が莫大だと返済しきれずに会社と共に自己破産せざるを得なくなる場合も出てきます。
経営者保証が、事業承継の際の大きな障害となってしまうことは、いうまでもありません。
それでは、経営者保証を外す際のベースとなる、経営者保証ガイドラインについて確認していきましょう。
経営者保証ガイドラインとは
「経営者保証に関するガイドライン」は、中小企業の経営者保証に関する契約時及び履行時等における中小企業、経営者及び金融機関による対応についての中小企業団体及び金融機関団体共通の自主的ルールとして策定されました。
経営者保証に依存しない融資の一層の促進のため、主たる債務者、保証人及び対象債権者が対応すべきガイドラインが明示されています。
債務者および保証人の対応について
経営者保証を外すための指標として、ガイドラインには下記の内容が明記されています。
- 法人と経営者との関係の明確な区分・分離
- 財務基盤の強化
- 財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
それでは、それぞれを見ていきましょう。
1.法人と経営者との関係の明確な区分・分離
ガイドラインを抜粋すると、「主たる債務者は、法人の業務、経理、資産所有等に関し、法人と経営者の関係を明確に区分・分離し、法人と経営者の間の資金のやりとり(役員報酬・賞与、配当、オーナーへの貸付等をいう。以下同じ。)を、社会通念上適切な範囲を超えないものとする体制を整備するなど、適切な運用を図ることを通じて、法人個人の一体性の解消に努める。」と明記されています。
これは、「法人の業務、経理、資産所有等に関して、法人と経営者個人の区別をちゃんとしていきましょう」ということになります。
具体的には、経営者の資産(土地や建物)などが会社の事業にそのまま使用されている、会社のお金が経営者個人の飲食などに使用されていたり貸し付けが行われている、などがあげられます。
2.財務基盤の強化
ガイドラインを抜粋すると、「経営者保証は主たる債務者の信用力を補完する手段のひとつとして機能している一面があるが、経営者保証を提供しない場合においても事業に必要な資金を円滑に調達するために、主たる債務者は、財務状況及び経営成績の改善を通じた返済能力の向上等により信用力を強化する。」と明記されています。
これは、「経営者個人の資産に頼らずに、法人のみの資産や収益力で、借入金の返済をすることができる財務状況にしていきましょう」ということになります。
具体的には、業績が好調で返済に十分なキャッシュフローがあり、今後も見込めること、現在の経営状況は厳しいものの十分な内部留保があり返済が見込めること、などです。
3.財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示等による経営の透明性確保
ガイドラインを抜粋すると、「主たる債務者は、資産負債の状況(経営者のものを含む。)、事業計画や業績見通し及びその進捗状況等に関する対象債権者からの情報開示の要請に対して、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明することにより、経営の透明性を確保する。」と明記されています。
これは、「金融機関に対して、密にコミュニケーションを取り、必要な情報の開示・説明、財務状況について報告していきましょう」ということになります。
具体的には、決算書類の開示(貸借対照表、損益計算書など)を遅延なく行い、期中においても定期的な報告、想定外の状況など適時開示する、などです。
金融機関の対応について
経営者保証に関するガイドラインには、債務者である企業から経営者保証に関して見直しを申し入れられたときの金融機関の対応についても明記されています。
既存の保証契約の適切な見直し
ガイドラインを抜粋すると、「主たる債務者において経営の改善が図られたこと等により、主たる債務者及び保証人から既存の保証契約の解除等の申入れがあった場合は、対象債権者は第4項(2)に即して、また、保証契約の変更等の申入れがあった場合は、対象債権者は、申入れの内容に応じて、第4項(2)又は第5項に即して、改めて、経営者保証の必要性や適切な保証金額等について、真摯かつ柔軟に検討を行うとともに、その検討結果について主たる債務者及び保証人に対して丁寧かつ具体的に説明することとする。」と明記されています。
これは、「債務者および保証人である経営者からの申し出に対して、要件とされる項目の対応が出来ている場合には、真摯かつ柔軟に検討を行いましょう」と経営者保証を外すことが求められている内容となっています。
まずは、要件である3つの項目を実現していくことが経営者保証解除に向けての近道といえます。
※第4項(2)とは、「経営者保証に依存しない融資の一層の促進に関する対象債権者における対応」のこと
※第5項とは、「経営者保証の契約時の対象債権者の対応」のこと
経営者保証を外すポイント
まず、経営者保証を外すうえで重要なのは、「金融機関との信頼関係」です。日頃から密なコミュニケーションを取り、決算書類の開示・説明はもちろん、定期的な面談を実施することで、良好な関係を築きあげていくことです。そうると、前向きに対応してくれる可能性が高くなります。
次に「経営者保証に関するガイドライン」に示されている、1.法人と経営者との関係の明確な区分・分離、2.財務基盤の強化、3.財務状況の適時適切な情報開示等による経営の透明性確保、以上の3つの要件を実現していくことです。
これらの3つの要件はどれも大事ですが、一番難しいのといえるのは財務基盤の強化かもしれません。財務基盤の強化=十分な業績を確保し今後も継続して十分な利益を上げる=キャッシュフローが見込まれること、ということになりますので、根本的な経営改善・経営革新が求められる場合も出てくると思われます。十分な内部留保が蓄積されていない、債務超過であるという場合は、なおさらです。そのような場合は早期の取り組みが必要となります。
本日のまとめ
本日は経営者保証を外す際の指針となる「経営者保証に関するガイドライン」について確認しました。経営者保証を外すのは簡単ではないものの、それには一定の指標があり、それを実現することで解除ができることが確認できました。先ほどのところでも触れましたが、それには一定程度の十分な収益を確保することが必要となります。さいきコンサルティングでは、単なる事業承継だけではなく、経営革新・経営改善を含めた事業承継を伴走型支援にて実施していきます。
広島における事業承継に関わるご相談は、さいきコンサルティングまでお気軽にお問い合わせください。
次回は、経営者保証の解除を支援する「事業承継特別保証制度」について確認していきます。
それでは、また。
- この記事を書いた人
- 中小企業診断士/事業承継士
- ソニーの国内販売会社に38年間勤め、営業・マーケティング・マネジメントに携わる。量販本部担当を12年するほか、ソニーショップの経営支援などを行う。2021年より「さいきコンサルティング」を開業。
さいきコンサルティングでは、事業承継に関わるご提案および解決に向けて伴走型で支援をしていきますが、弁護士、税理士などの独占業務など、業法に抵触する職務をすることはありません。