前回は遺言書の必要性について確認いたしました。60歳を超えると万が一のことが起きる確率も高くなりますので、後継者への事業承継など、会社が安定して存続することを考慮すると、遺言書を残しておくことが一番の対策になるということでした。では遺言書はどのように書いたらいいのでしょうか。本日は遺言書の書き方について確認していきます。
遺言書の種類
遺言書には、主に自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。それぞれメリット・デメリットがありますので、状況や目的に応じて、自分に合ったやり方を選択することが望ましいと思います。
※遺言書には普通方式遺言と特別方式遺言の2通りの形式があり、特別方式遺言は事故・人事災害などで身に危険が迫っているときに利用できる形式で、普通方式遺言はそれ以外の通常時の状態で使われる形式です。ここでは、普通方式遺言の3つについて説明いたします。
それでは、それぞれ詳しく見ていきましょう。
自筆証書遺言について
自筆証書遺言の特徴
自筆証書遺言は、遺言者が遺言の全文、日付、氏名を自筆で記載し、押印(認印で可)をすることで、その遺言書が遺言としての効力が認められるものになります。代筆、パソコン、ワープロ、音声、映像などは全て無効になります。2020年7月より改正民法が施行され、財産目録の部分についてはパソコンでの作成が可能となりました(全ページに署名・捺印が必要)。決まった書式はなく横書き・縦書きなどの指定もありません。また用紙やペンなども自由ですが、偽造や変造を防止するためにも、破れやすい用紙や鉛筆・シャープペンなどは避けた方がいいです。
自筆証書遺言では家庭裁判所での検認が必要
自筆証書遺言は、遺言者の死亡の後に、家庭裁判所にて遺言書の内容を確認する検認という手続きが必要となります。検認を受けるためには、遺言書を保管している人または遺言書を発見した人が、被相続人が最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。(「遺言書の検認」)
自筆証書遺言書保管制度
これまでは、遺言者が自分でその遺言書の原本を保管・管理する必要があり、遺言者本人の死亡後に相続人等が家庭裁判所で検認手続きをする必要がありましたが、2020年7月の改正民法が施行され、法務局で自筆証書遺言の保管ができる制度が創設されました。これにより紛失・亡失を防ぐと同時に、他人に破棄されたり、隠匿,改ざん等される恐れもなくなります。さらに相続人等は検認手続きが不要となります。さらに法務局において遺言書を閲覧したり,遺言書情報証明書の交付が受けられたりするなど、活用しやすい制度となっています。詳しくは「法務局における自筆証書遺言書保管制度について」をご確認ください。
その他の注意点
財産目録の作成
遺産は、何がどの程度あるのかなど、正確に分かるようにしておく必要があり、財産目録を作成します。特に遺言書に書かれていない財産などがあるとその財産を巡って争いになることもあり得ます。相続財産を漏れなく正確に記載します。さらに「ここに指定のない財産は全て○○に渡す」などと記載しておくと問題の発生を防ぐことができます。
日付の明記
自筆証書遺言を作成した日付は必ず記載します。遺言書が複数ある場合は、新しい日付のものが効力を持ちます。修正のために書き直した際など、あとあと問題にならないように日付を忘れずに書いておきましょう。
署名・捺印、封印
遺言者の署名と押印がなければ遺言書そのものが無効になります。押印については認印でも良いですが、なるべくシャチハタや市販の認印は避けて実印を使う方が問題の発生を防ぐことにつながります。
また自筆証書遺言では封印がなくても問題ありませんが、未開封であることの証明として、念のため封筒は封印しておく方がいいです。
自筆証書遺言のメリット・デメリット
自筆証書遺言は特別な手続きの必要がないため、比較すると手軽に作成できるのがメリットです。遺言書を書いた事実を伝える必要もなく、他人に遺言内容を知られることもありません。デメリットは、遺言書を個人で管理する場合は偽造や隠蔽のリスクがあること、専門家のチェックを受けていない場合不備により無効になってしまう恐れがあること、遺言書を発見した相続人は家庭裁判所に遺言書を提出して検認手続きをする必要があり手間がかかることなどがあげられます。
公正証書遺言書について
公正証書遺言の特徴
公正証書遺言とは、証人2人の立会いのもと、遺言者が公証人へ口頭で遺言の内容を説明し、公証人が書面化して遺言書を作成し、遺言者と証人がその書面の内容が間違いないことを確認して署名・押印し、さらに公証人が署名・押印することで作成する遺言書です。
公正証書遺言のメリット・デメリット
公正証書遺言メリットは、作成は法律の実務経験のある公証人が作成し、これを証人が確認して作成される「公正証書」という形の遺言書なので、偽造や変造のおそれがないということ、公証役場で保存されるため紛失のおそれがないこと(遺言者にはそのコピーである謄本が交付される)、家庭裁判所による検認が必要ないこと、があげられます。
デメリットは、公証役場で公正証書遺言を作成するので、事前の準備(日程の調整や必要な書類を準備することなど)が必要なこと、公証役場所定の手数料がかかること、2名以上の証人を確保する必要があること、など手間と工数がかかることがあげられます。
2名以上の証人が必要なことについて
公正証書遺言を作成する際には必ず2名以上の証人が必要になります。また、証人には条件があり、該当する場合は証人になることができません※1(民法974条)。適切な証人が見つからない場合、公証役場に証人となる人材を紹介してもらうことも可能です(別途費用がかかります)。
※1「未成年者」、「推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族」、「公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人」は証人となることはできません
遺言執行者について
遺言執行者とは、遺言者が死亡した後に遺言内容を実行する人のことです。遺言執行者には「遺言で指定された者」か「家庭裁判所で選任された者」になりますが、「遺言で指定された者」には拒む権利もあります。遺言の内容を実行する重要な役割を担っているため、誠実かつ実行力のある者がつとめる必要があります。あらかじめ、そのような方を指定しておくことで、相続人が遺言内容と異なる遺産分割や遺産の処分を勝手に行うことを防げるなど、円滑な相続の実現につながります。
秘密証書遺言について
秘密証書遺言の特徴
秘密証書遺言とは、公証人と証人2人以上に遺言書の「存在」の証明をしてもらいながら遺言内容を「秘密」にすることができる遺言書の形式です。遺言者の死後、遺言書が発見されないことを防ぐことができ、かつ遺言の内容を秘密にしておくことができるのが特徴となります。公証人、証人、相続人含め本人以外は内容を見ることができません。
秘密証書遺言の作成方法は、まず遺言者が手書きやパソコンで遺言内容を書きます。自筆の署名と押印がされていれば問題ありません。その遺言書を封筒に入れて封をして遺言書に押印した印鑑と同じもので封に押印します(違うと無効になります)。2人の証人と一緒に公証役場へ遺言書を持っていき、自分の遺言書であることの証として、証人の前で遺言書を提示し氏名と住所を申述し、自分の遺言書であることを証明します。公証人は遺言書を提出した日付と遺言を書いた人の申述を封紙に記入し、さらに遺言を書いた人と2人の証人が署名押印したら秘密証書遺言の完成となります。完成した秘密証書遺言は、遺言者自身で保管します。公証役場には遺言書を作成したという記録だけが残ります。
以下に該当する人は証人になれません。
「相続人となる人」、「未婚の未成年者」、「受遺者及びその配偶者と直系家族・秘密証書遺言の作成を担当する公証人の配偶者と4親等内の親族」、「公証役場の関係者」
秘密証書遺のメリットとデメリット
秘密証書遺言のメリットは、公証人が遺言の内容を確認しませんので、誰にも遺言内容を知られることがありません。また、遺言者によって書かれた遺言書か確認する必要がありません(遺言者本人が作成し封入するので確認が不要になります)。さらに、遺言を残す人が遺言書に封をして公証人が封紙に署名をしますので、この封が破られている場合や開かれた跡が残る場合は法律上の効果が認められませんので、偽造や内容の変造を避けることができます。作成は、自筆証書遺言とは違い、遺言全文を自筆で書く必要がありませんので、パソコンでの作成や、他の人に代筆してもらうことも可能です。
デメリットは、作成する際に、証人が遺言内容を確認しませんので、遺言書の形式が違うなど、内容に不備があると無効となってしまう場合があります。※2
秘密証書遺言は、公証人への依頼や2人の証人による立会いが必要で、この手続の手間や工数は公正証書遺言とあまり変わりません。さらに費用に関して、公正証書遺言よりは安いものの費用がかかるのは同じです。また、公正証書遺言と違い、遺言書の管理は自身で行うため、紛失するおそれがあります。さらに遺言の確認には家庭裁判所の検認が必要であり、一定の手間と時間が必要になります。
※2 自筆証書遺言の要件を満たしていれば自筆証書遺言として有効になります。念のために自筆で書いておいた方が良いです(民法971条)。
明記する遺言の内容について
遺言は、一般的に財産面の意思表示をしておくことを言います。遺言事項は、民法、ほかの法律で定められた事項に限られます。法定相続人以外に相続をする場合は遺言を書いておかないと法的には無効となりますので注意が必要です。
① 相続に関すること
- 推定相続人の廃除又は廃除の取消し(民法893条、894条)
- 相続分の指定又は指定の委託(民法902条)
- 遺産分割方法の指定又は指定の委託(民法908条)
- 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言
- 特別受益の持ち戻し免除(903条)
- 遺産分割の禁止(民法908条)
- 遺贈の減殺方法の指定(民法1034条)
- 相続人相互の担保責任について指定(民法914条)
② 相続財産の処分に関すること
- 遺贈(民法964条)
- 財団法人の設立
- 信託の設定(信託法2条)
③ 身分に関すること
- 子の認知(民法781条)
- 未成年後見人、未成年後見監督人の指定(民法839条、民法848条)
④ 遺言の執行に関すること
- 遺言執行者の指定又は指定の委託(民法1006条)
- 遺言執行者の職務内容の指定(民法1016条、民法1017条)
⑤ その他
- 祭祀承継者の指定(民法897条①)
- 遺言の取消(民法1022条)
- 生命保険金の受取人の指定・変更(保険法44条)
実務上の注意点
遺言は法定相続人が全員同意のもとで、その遺言を覆すことが可能です。実務としてはこのような話はある話であり注意が必要です。そのために遺言執行人を指定し実行させるようにしていたとしても、遺言執行人自体が相続人全員に説得されて同意せざるを得なくなったりすることもあります。
また一番大事なことは、遺言の存在とその場所について生前に予め伝えておくということです。これをしておかないと、遺族が苦労し、ないことで無益な争いに発展する可能性が出てきます。
遺言があれば相続争いがなくなるかといえば、それは違います。極端に偏った財産の分配が指示されていることや、意図としない第三者(愛人、隠し子、宗教法人など)が登場すると争族に発展する可能性が高くなります。
では、これらを防ぐにはどうしたらいいのでしょうか? 遺言書を書く前に現社長が家族への想いを自分で確認し、それに基づいて遺産相続の内容を決め、それを事前に家族間で調整したうえで、家族会議を開き、それぞれの想いや期待する役割をみんなの前で伝えていくことで納得してもらうというのが必要かと考えます。
これらをお手伝いするのが事業承継士であり、我々が一番活躍する場面かと思います。
本日のまとめ
遺言書は単に書いておけばいいというものではもちろんありません。事業承継を行うにあたっての問題点を把握し課題を設定して事業承継計画を立てて、それに基づいて家族間の事前調整を行い、家族会議を実施して、それぞれが納得できるようにしていくのが、必要な手順であり、円滑な事業承継を実現できるものとなります。それにはやはり専門的知識、総合的な見地からのアドバイス、調整に向けての時間が必要であり、まずは、いち早く手を付けることが近道となります。
広島における事業承継に関わるご相談は、お気軽にさいきコンサルティングまでお問合せください。
次回は、退職金について確認していきます。
それでは、また。
- この記事を書いた人
- 中小企業診断士/事業承継士
- ソニーの国内販売会社に38年間勤め、営業・マーケティング・マネジメントに携わる。量販本部担当を12年するほか、ソニーショップの経営支援などを行う。2021年より「さいきコンサルティング」を開業。
さいきコンサルティングでは、事業承継に関わるご提案および解決に向けて伴走型で支援をしていきますが、弁護士、税理士などの独占業務など、業法に抵触する職務をすることはありません。