みなさん、こんにちは。
本日は事業継続力強化計画について確認いたします。
中小企業庁のホームページでは、事業継続力強化計画とは、主に中小企業・小規模企業向けの防災・減災の事前対策計画と書かれています。ビジネスを推進していくにあたり、リスク管理は必須です。
特に最近は、気候変動などにより、今までにはない規模の自然災害が起こっています。また、南海トラフ巨大地震などの各エリアにおいても地震による災害が予想されており、事前にこれらに対する対策計画を立案するのは必須をいえます。
しかしながら、人手不足の中小企業においては計画を策定している企業は少なく、帝国データのデータによると、事業継続計画(BCP)の策定率は17.6%となっており、過去最高となるものの低水準にとどまっている状況です。
実はこの事業継続力強化計画ですが、事業承継の実務においては、後継者が一番最初の取り組む課題として最適なものとなります。後継者の方が決まったらまず取り組む課題としての事業継続力強化計画を本日は確認していきます。
後継者が事業継続力強化計画に取り組む理由
後継者が学ぶべきもののなかで一番大事なのが自社を知るということだと考えます。
それでは自社を知るということは具体的にはどんなことでしょうか。
それは経営理念であり、組織であり、自社の顧客であり、儲けのしくみ、いわゆるビジネスモデルであり、管理の手法であり、業務全般およびその流れであります。
事業継続力強化計画を策定するにあたり、経営全般を俯瞰して見ながら、それぞれ一つひとつを確認していき対策を考えていくことで、自社を深く知ることにつながります。また後継者がリーダーとして自社内の各部署と連携することにより社員とのコミュニケーションを図ることができ、社員のことを理解するきっかけにもなります。
さらに策定される事業継続力強化計画はリスク管理となることはもちろんですが、それを取引先や金融機関などと共有することにより、企業としての評価も高まりますので、非常に価値の高い活動だといえます。
事業継続計画(BCP)と事業継続力強化計画との違い
冒頭で帝国データバンクのデータを確認しましたが、このデータは事業継続計画(略BCP、以下BCPと表記)の策定率のデータでした。これからお話する事業継続力強化計画ですが、似た言葉で混同しやすいのですが、両方とも目的は同じものになります。では、違いは何でしょうか?
BCPは企業の規模は関係なく、企業が自然災害などの緊急事態に遭遇した際に事業資産への被害を最小限にして中核事業の継続、早期復帰を可能とするための計画で、平常時や緊急時に取るべき行動(手段・方法)がまとめられるものです。
事業継続力強化計画とは、中小企業においてなかなかBCPの策定が進まない現状を踏まえ、令和元年に中小企業強靭化法が施行され、中小企業が策定した防災・減災の事前対策に対する計画を経済産業大臣が認定する制度が始まりました。わかりやすく言うと中小企業向けのBCPの簡易版、入門編といえるのが事業継続力強化計画といえます。策定しやすいように、型が決まっており、それに従って作成すると完成するようになっています。
内容としては、事業継続力強化に取り組む目的や、事業活動に影響を与える自然災害の想定、非常時の初動対応手順、ヒト・モノ・カネ・情報という切り口で具体的な対策を考えていきます。
事業継続力強化計画の認定メリット
計画が認定されると下記の金融支援策が受けられます。
- 日本政策金融公庫による低利融資
- 信用保証枠の追加
- 防災・減災設備への税制優遇
※支援策について内容についてはここでは詳しく説明しません。
こちらを(中小機構:事業継続力強化計画/計画策定・申請のメリット)をご確認ください。
事業継続力強化計画の申請について
事業継続力強化計画「電子申請システム」から申請します。
なお、電子申請には、GビズIDアカウント(gBizIDプライムもしくはgBizIDメンバー)が必要となります。
※行政サービスを利用するためのアカウントです。法人・個人事業主が利用できる共通認証システムです。
※アカウントの取得には約2週間程度かかります
事業継続力強化計画の策定について
中小企業庁のホームページに事業継続力強化計画策定の手引きに掲載されています。
それによると策定ステップは下記の通りとなります。
- STEP1.事業継続力強化の目的の検討
- STEP2.災害等リスクの確認・認識
- STEP3.初動対応の検討
- STEP4.ヒト・モノ・カネ・情報への対応
- STEP5.平時の推進体制
それでは申請の手順も踏まえて確認していきましょう。
STEP1.事業継続力強化の目的の検討
申請では、「事業活動の概要」→「取り組む目的」の順に記入するようになっています。
まず自社の事業活動を振り返るところから進めていきます。事業活動を進めていくには自社の企業理念や経営方針、行動指針、経営ビジョンなどが前提となっており、それを実現していくのが企業の目的にもなります。そして自社の事業活動が顧客、取引先など地域経済やサプライチェーンの中でどんな役割を果たしているのか、その活動を支える従業員や家族に対する責務は何なのかを考えます。それらを考えることで方向性が明確になり、目的・目標が決まっていきます。
STEP2.災害等リスクの確認・認識
事業活動に影響を与える自然災害等の想定
ハザードマップを活用して、事業所や工場がある地域に実際にどんな災害等のリスクがあるかを確認します。国土交通省をはじめ、都道府県や市町村が作成し、ホームページで公開されていますので、これを活用します。具体的には、震度5以上の地震が予想される地域なのか、台風、豪雨、津波などによる浸水が予想される地域なのか、土砂災害がある地域なのか、などを確認します。
自然災害等の発生が事業活動に与える影響
つづいて、考えられる災害などの影響を5つの切り口で想定します。
- 「人員に関する影響」<ヒト>
- 「建物・設備に関する影響」<モノ>
- 「資金繰りに関する影響」<カネ>
- 「情報に関する影響」<情報>
- 「その他の影響」<その他>
想定される影響は、自然災害や感染症によって全般的に発生する「事象」と、災害が発生した際に事業継続が阻害される弱点となる「脆弱性」の二つを掛け合わせて考えるように推奨されています。
策定マニュアルに想定される事例が掲載されていますので、これを参考に作成することができます。
STEP3.初動対応の検討
災害の被害や影響を最小限に抑えられるかどうかは、初動対応にかかっています。それには、初動対応を事前に決めておくことで比較的にスムーズに対処できるのでこれらを事前に考えるのがこの項目となります。ちなみに、生死を分けるタイムリミットは災害発生後72時間といわれており、スムーズな初動対応が重要となります。
以下の4つの切り口で対応を検討していきます。
- 人命の安全確保
- 非常時の緊急時体制の構築
- 被害状況の把握と共有
- その他の取り組み
何といってもいちばん大切なのは人命です。まずは、人命の安全確保のための、従業員の避難方法、安否確認方法、顧客への対応、生産設備の緊急停止方法など、記載していきます。
そして、災害発生後、影響を最小限に抑え、速やかに事業継続に向けての動きに持っていくには、迅速に緊急体制を構築し、被害状況をきちんと把握することが必要です。
緊急時体制による指揮命令系統のもとで被害状況を正確に把握し、情報共有を行う必要があります。
こちらも策定マニュアルに参考事例が掲載されていますので参考にして策定していきます。
STEP4.ヒト・モノ・カネ・情報への対応
ここでは、事業継続力強化に資する対策および取り組みを考えていきます。
災害発生後、事業の停止期間をゼロまたは最短にし、損失を最小限に抑えるために「ヒト・モノ・カネ・情報」という4つの経営資源の観点から事前対策を検討していきます。
申請では、この4つの取り組みのうち、1つ以上記載することが必須とされています。
事業を継続するにあたって重要な業務は何なのかを考え、優先順位を決めて取り組む項目を決めていきます。
「STEP2災害等リスクの確認・認識」のところで、自然災害等の発生が事業活動に与える影響を考えましたが、そこで検討した「脆弱性」を課題として捉え、現在の取り組み、今後の計画を考えていきます。
なお、認定のメリットである、税制優遇、金融支援を希望する場合は、「事業継続力強化に資する設備、機器及び装置の導入(モノ)」に関する入力が必須となっています。
STEP5.平時の推進体制
事業継続力強化計画は、策定したらそれで終わり、というわけではなく、日頃からの備えが大事になります。下記の項目について、日頃から実施していく取り組みをまとめていきます。
- 推進体制の構築
- 訓練・教育の実施
- 計画の見直し
<推進体制の構築>
経営層のコミットメント、それに準ずる経営陣を責任者とした計画を推進する体制を構築します。日頃から計画の取組状況を確認したり、定期的に会議を実施するなど、見直しを図ったりする推進体制を構築します。
<訓練・教育の実施>
策定した計画は、緊急時にきちんと実行できるよう、定期的に教育・訓練を実施することが必要です。「繰り返し」は大きな効果となります。
<計画の見直し>
計画を策定したものの、実際に訓練をしてみると、修正が必要になったり、新しい設備・機器が導入されて業務を進める手順が変更になったり、計画策定時とズレが生じる場合があります。あらかじめ時期を決めて見直すようにしましょう。
本日のまとめ
事業継続力強化計画の策定は事業を推進していくうえでは、リスク管理として重要な活動となります。ただ人手不足である中小企業ではなかなか策定できていないのが現状です。これを後継者がリーダーとして策定していくことは、計画の策定そのものに価値があるのはもちろんですが、後継者が主体となって推進していくことで、後継者が自社を知ることにもつながり、一挙両得となるのは間違いないです。後継者が決まったら、事業承継を進める手始めとして、まずこれに取り組んでみてはいかがでしょうか。
さいきコンサルティングでは、事業承継における課題を伴走型でご支援いたします。
広島における事業承継に関わるご相談はお気軽にさいきコンサルティングまでお問い合わせください。
次回は、後継者が経営を承継するにあたってやることについて確認します。
それでは、また。
- この記事を書いた人
- 中小企業診断士/事業承継士
- ソニーの国内販売会社に38年間勤め、営業・マーケティング・マネジメントに携わる。量販本部担当を12年するほか、ソニーショップの経営支援などを行う。2021年より「さいきコンサルティング」を開業。
さいきコンサルティングでは、事業承継に関わるご提案および解決に向けて伴走型で支援をしていきますが、弁護士、税理士などの独占業務など、業法に抵触する職務をすることはありません。