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後継者が見つからない場合の出口戦略としての廃業が直近増えているので、廃業について前回確認しましたが、廃業にあたっての注意点はたくさんありました。
これらを考慮すると、廃業を決める前に今一度、会社・事業を売却することを考えてみて、どうしてもダメな場合に廃業を選択するのが、賢明ではないかということでした。
本日は、事業承継における会社・事業の売却=M&Aについてポイントを整理してお伝えいたします。
事業承継の現状と増加するM&Aの割合
事業承継の方法としては、以前は「親族内承継」が一番多かったのですが、後継者不在により2018年の42.7%から2020年には34.2%まで減少しており、「内部昇格(役員や従業員)」によるものが31.4%から34.1%まで上昇、M&Aの割合である「その他」の割合も2018年15.3%から2020年には18.6%まで上昇しています。
一方、全国の社長の平均年齢は2020年には62.49歳まで(東京商工リサーチ)上昇してきており、社長の引退年齢の平均が67.7歳と横ばいとなってことを考えると、残された時間が短くなっている状況です。後継者不在率が48.2%(60代・帝国データバンク)ということを見ると喫緊の課題であることは間違いありません。
廃業が増加しているのもこれが裏づけとなっているのではないでしょうか。
特に後継者不在率は年商の規模が小さくなるほど高くなる傾向です。
年商が小さいとM&Aは無理ではないのかと考えれている経営者が多いかと思いますが、今一度検討していただけたら思います。
M&Aのメリットについて
事業承継における売り手としてM&Aのメリットについて下記の内容があげられます。
- 会社の存続と発展が見込める
- 売却による利益が得られる
- 個人保証が解除できる
- 従業員の雇用を守れる
- 顧客や取引先との関係を維持できる
それぞれ確認していきましょう。
会社の存続と発展が見込める
会社を売却することで企業が存続することはもちろんですが、結果的に後継者として、社外の優秀な人材を選ぶことにもなり、経営者の手腕により会社の発展へとつながる可能性が出てきます。相手企業の経営資源の活用などによるシナジー効果や、経営ノウハウやさまざまな知見により今まで以上に経営力が発揮されることで成長することが十分見込まれます。
売却による利益を得られる
売却する企業の経営状況・財務状況によりますが、株式譲渡で売却利益を得ることができます。現経営者は売却利益により老後の資金を賄うことにもつながり、第二の人生に向けて良いスタートを切ることができます。また自社株式が現金に変わることで、今後の相続に向けてスムーズに進むメリットも出てきます。
売却する金額が思ったほどない場合にしても、廃業する場合は費用が掛かることを考えると、ある程度の金額で売却することができれば、手元に残る金額は多くなる可能性が高くなります。
個人保証が解除できる
会社が銀行から借入を行う際に結んだ経営者の個人保証を解除できます。また自宅などの不動産を担保に入れている場合も設定が解除されます。一般的に会社を売却すると個人保証は買い手(譲受け企業)が引き継ぎ、担保設定なども解除となり、債務保証から解放されます。結果的に心理的な負担がなくなります。
従業員の雇用を守れる
後継者が見つからないことで廃業となるばあいは従業員を解雇することになりますが、売却先企業が決まれば、従業員の雇用を守れる可能性が高くなります。M&Aによる譲渡先との条件交渉の中に、「従業員の雇用の維持」を入れることで実現される可能性が高くなります。売却先の企業規模が大きい場合は、労働条件や労働環境が良くなる可能性もあります。
顧客や取引先との関係を維持できる
上記と同じく、廃業となる場合は、顧客や取引先に迷惑をかける可能性も出てきますが、売却先企業が見つかれば、そのまま継承されるケースが一般的ですので、その関係性を維持することができます。サプライチェーンの一翼を担っている場合などは特に取引先から喜ばれる可能性大です。
M&Aを進めるうえでの注意点
M&Aをスムーズに進めていくうえでの注意点をまとめました。
- 目的の明確化
- 事前の合意形成
- 会社の業績が良い時に決断する
- 秘密保持と情報漏洩について
- 売却交渉は適切な時間で
- デューデリジェンスにあたって
それぞれ確認していきましょう。
目的の明確化
まずM&Aを実施する目的を明確にしておきます。これを明確にしておくと、提示する条件や売却方法などの優先順位などが明確になり、M&Aをスムーズに進めやすくなります。
- 会社を残す/発展させる
- 従業員の雇用の確保
- 顧客を継続して対応する
- 売却利益を確保して第二の人生に備える
すぐに相手が見つかる場合もありますが、なかなか見つからない場合が多く発生します。
長丁場になると、目的を見失ってしまう場合も出てきます。これを明確にすることで、譲る点と譲れない点の線引きもしやすくなります。まずはここから進めていきましょう。
事前の合意形成
中小企業の場合は親族内で株式を保有しているケースが多いと思いますが、その際に家族会議を実施して会社の売却に対して事前の合意を取り付けておく必要があります。会社の売却は親族に大きな影響を与えることになります。後継者が見つからないからM&Aを検討する訳ですが、いざ売却するとなると、親族の中に「会社を売却するくらいなら自分が承継する」と覚悟を決めたりする者も出てきたりします。後で取り返しがつかなくならないように、事前に親族内での合意形成を取り、進めていく必要があります。
会社の業績の良い時に決断する
なかなか会社の業績が良い時は判断がつかないものですが、良い時に売ることが成功のポイントです。会社の業績が悪い時に判断してしまうと売却先がなかなか見つかりにくいのが現状です。逆の立場になると分かるのではないでしょうか。会社の業績が良い場合はおのずと売却価格も高くなる可能性が大きく、条件交渉なども有利に進めやすいです。また、赤字が続く場合や、債務超過の場合は、売却すること自体が難しくなります。
この判断は非常に難しいことですが、経営者自身のことではなく会社の将来のことを第一優先で考えて、後継者が見つからない場合は「会社の存続を優先する」ということで、決断につながるのではないでしょうか。
秘密保持と情報漏洩について
M&Aをスムーズに進めるためには秘密保持は必須です。交渉中はもちろんですが、M&Aを検討する際に部外に情報が洩れてしまうと、関係者に大きく影響を与えます。取引先によっては取引を停止したり、金融機関によっては借入に影響したり、優秀な従業員が転職を考えたりするなど、企業の存続に影響する場合も出てきます。飲み屋で酔った勢いでついついしゃべってしまうことなどがないよう、情報漏洩には細心の注意していくのが最重要事項です。
売却交渉は適切な時間で
M&Aはよく結婚に例えられます。両思いで熱くなりすぎると失敗する場合もありますが、慎重に進めすぎると熱が冷めてしまい、タイミングを逃してしまう場合も出てきます。適切な時間をかけて進めていくことが必要です。これが非常に難しいと言えますが、売却することを考えると、ある程度スピーディに進めることが必要です。これもよく言われることですが「鉄は熱いうちに打て」というのが鉄則です。時間をかけて検討するよりも、早期に決断し決断したらすぐに進めるという方がうまくいくケースが多いようです。そのためにも、事前に目的を明確にしておき、それを実現できるのなら、すぐに進めていくという姿勢で臨んだ方が良いと考えます。
デューデリジェンスにあたって
基本合意の後にデューデリジェンスが行われます。高く売ろうとして悪いことを隠すと、後々いろいろと調べられてそれが分かってしまう場合、破談につながることにもなりかねません。人間と同じで長所も短所もあるのが普通の会社です。嘘や隠し事はしないようにしましょう。
またデューデリジェンスの際には弁護士や税理士が詳細にチェックするので、あたかも警察での取り調べのように思われる経営者の方もいらっしゃいますが、買収するにあたっての当然の行為であるので、冷静に対処することが必要です。
売却価格について
中小企業の場合は未上場の株式のため、企業価値を算定して売却価格が決められます。売却価格の算出には一般的に「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」の3つの評価方法がありますが、中小企業のM&Aの実務においてはコストアプローチのなかの『時価純資産+営業権法』で行われるケースが多いようです。
売却価格=時価純資産+営業利益
純資産を時価で評価し、営業利益×2~3年分を加えたもの(利益年倍法)が目安となります。
複雑な計算を必要としないため、シンプルで客観性のある計算方法です。
譲渡企業の収益性を加味した企業価値だと言えます。
売却しやすい会社の特徴
買い手企業から高い評価を得られ、選ばれやすい会社の特徴は下記の通りです。
- 売上が好調で利益やキャッシュフローが安定していること
- 自己資本比率が高く借入金が適正範囲内
- 会社の会計処理が適切にされていること
- 経営体制が経営者に依存しすぎていないこと
- コンプライアンス違反がないこと
これらは高い評価が得られる企業の当たり前の特徴ですが、これらの特徴に加え、買い手企業から見て、市場のシェアを高められる、そのエリアへの参入ができる、本業の補完ができ競争優位性が発揮できる、事業の多角化が進められる、など買収の目的にあう条件と合わされば、早期にM&Aが進む可能性が高くなります。
船井総研様との連携によるM&A実施
さいきコンサルティングでは、事業承継協会の賛助会員である船井総研様とM&Aを進めていきます。船井総研様は言うまでもなく、有名な経営コンサルティング会社です。
船井総研様のM&Aにおける強みは下記の通りです。
- 業種に強いM&Aコンサルティングができること
- 成長意欲の高い多数の会員をお持ちであること
- 年商5,000万円~10億円規模の多数の成約実績があること
多数の実績をお持ちの船井総研様は、売却はもちろん、売却後の企業の発展に向けたコンサルティング(PMI)も視野に入れたサポートができますので、安心して売却することができます。
M&Aの手順
M&Aを進めていく手順については下記の通りとなります。それぞれの詳細な説明は省きますが、一般的なM&Aを進める流れと同じとなっています。
- 個別相談
- 秘密保持契約
- 簡易企業価値診断
- ノンネームシート作成
- アドバイザリー契約
- 企業概要書作成
- 買い手の選定
- トップ面談
- 条件調整等
- 意向表明書提出
- 基本合意書締結
- デューデリジェンス
- 最終条件の協議
- 最終合意契約書
- ディスクロージャー
- PMI(Post Merger Integration)
さいきコンサルティングでの事業承継支援
さいきコンサルティングでは、事業承継のお手伝いを伴走型で行います。手段はいろいろとあり、経営者の方に寄り添い、実現に向けたお手伝いをいたします。
親族内承継を手はじめに、従業員承継などの親族外承継、M&Aである第3者承継までカバーしてお手伝いいたします。どうしてもダメな場合は廃業に向けてのご支援も行います。
当社の存在意義、パーパスは、事業承継を実現して地域社会に貢献することです。
事業承継に向けた総合的なご支援を進めていきます。
本日のまとめ
M&Aは会社を廃業させることから回避でき、会社を存続させるための必要な手段であり、決して後ろめたい方法ではありません。会社を存続させ、事業を継続させることで、地域経済の発展に寄与できます。後継者が見つからない、廃業せざるを得ない、と考える前に今一度検討してみてはいかがでしょうか。
広島におけるM&Aを含めた事業承継に関わるご相談は、お気軽にさいきコンサルティングまでお問い合わせください。
次回は事業承継税制の特例について、改めて確認いたします。
それでは、また。
- この記事を書いた人
- 中小企業診断士/事業承継士
- ソニーの国内販売会社に38年間勤め、営業・マーケティング・マネジメントに携わる。量販本部担当を12年するほか、ソニーショップの経営支援などを行う。2021年より「さいきコンサルティング」を開業。
さいきコンサルティングでは、事業承継に関わるご提案および解決に向けて伴走型で支援をしていきますが、弁護士、税理士などの独占業務など、業法に抵触する職務をすることはありません。