前回は後継者の選定について考えてみました。後継者を選定できた後は、経営者としてどう育成していくのかということが大事になります。選定した後継者の状況により育成方法は変わりますが、一般的な育成を確認していくことで、これをベースに進めていくことができますので、基本的な育成方法について本日は確認していきます。
企業理念やビジョン・経営方針・経営戦略・価値観・組織風土の理解について
後継者を選定する際に当然のことと取り上げていますが、改めてこの認識を新たにしていきます。これらの企業理念や価値観などは、経営をしていくうえで根幹となる部分ですので、現経営者からこれらの「考え」や「想い」などを直接、時間をかけて伝えていきます。密にコミュニケーションを取りながら、分かっているだろうではなく、確認をしながら確実に進めていくことが大事になります。後継者に経験を積ませながら、自分の知識やノウハウを含め、経営に対する想いや覚悟などを、継続して伝えていく必要があります。
これらについては、親族内承継はもちろんですが、親族外承継における外部から招聘した後継者については特に重要となります。経営能力があるから任せたということで終わらせないようにしましょう。現経営者の想いが伝わらないことで、結果的にうまくいかないことにつながります。
必要とされる資質・スキル習得の計画について
後継者が必要とされる知識・資質・スキルを明確にして、それをどのように習得していくのか、育成する方法を検討して計画を立てていきます。これには内容と客観的な基準を明確にしていき、育成計画を立てる必要があります。また、これらの計画については後継者に事前に確認しておき、どこでどんな知識・資質・スキルを習得していくのかを提示し事前に共有することで効果的に習得できるようにしていきます。
親族内承継においては自社内で各ポジションを段階的に経験することなどにより計画的に習得していけますが、そうでない親族外承継などの場合は後継者の状況により外部のセミナーを活用するなど、効果的・効率的に習得する計画が必要です。いずれにしても後継者の現在の知識・資質・スキルの状況で大きく変わっていきます。
<知識・資質・スキルの事例>
- リーダーシップ
- コミュニケーション能力
- 言語力
- 粘り強さ
- 冷静さ
- 決断力
- 実行力
- 責任感
- 変化への対応力
- リスクマネジメント
- コンプライアンス
- 社内全体を俯瞰する能力
- マーケティングに関する知識
- 業務に関連する専門知識
- 経営・事業に関する知識
- 事業に関する実務経験
- 税務・財務・法務の知識
- 顧客・取引先との折衝力
- 社員との良好な関係性構築
社外教育と社内教育
教育の方法には、社外と社内の2つがありますが、後継者の状況により、採り得る方法は変わってきます。親族内承継については、計画的に進めることができますが、親族外承継については、後継者の状況により大きく変わりますので、その点注意が必要です。
社外教育
後継者を他社で修業させることですが、主には親族内承継で早く後継者候補として決まっているケースが想定されます。他社で一定の経験を積ませることで、社会人・ビジネスマンとしての知識やスキルを身につけます。また、他社で働くことで自社とは異なる仕事の進め方や考え方を身につけ広い視野を得られることや、自社では得られない幅広い人脈を構築することができます。企業の候補としては、自社より大規模な企業の方が研修など充実している面もあり実施される場合が多いようです。期間は5年程度であまり長くならない方が今後の社内での育成を考慮すると良いと考えます。
社内教育
社内の財務、人事、営業などの主要部門の仕事を経験させることで、実務における経験と知識の習得をさせます。各部門での経験は、現場で働く従業員の気持ちを知ることにもなり、今後の経営に役立つものとなり、社員との一体感の醸成にもつながります。
また、チームリーダー・係長・課長・部長などの各役職を段階的に経験させることで、組織におけるそれぞれの役割についても理解することができます。社内で責任のある役職につかせ権限を持たせることで、重要な意思決定やリーダーシップを発揮する機会を与え、それらを実務で経験することで、経営者としての責任と自覚を醸成していきます。
そして、経営幹部への登用により経営のスキルを身につけさせます。トップとしての責任感や決断力、対外的な折衝力は、経営に参画しなければなかなか身に付きません。経営幹部となることで「経営感覚」を磨いていきます。現経営者と一緒になり、経営戦略や事業計画の策定に積極的に関わっていき、経営の実務経験を積ませていきます。
外部機関の中小企業向け後継者育成セミナー
後継者が企業経営に必要なスキルなどを効率的に学ぶ外部機関のセミナーがあります。
代表的なセミナーを3つご紹介します。
事業承継センターの後継者塾
事業承継を専門で行っている事業承継センターが実施している後継者向けの育成塾です。自覚を芽生えさせ、自信をつけさせ、会社を変えていくセミナーとなっており、既に12年で1,182名もの卒業生を出しています。卒業生から非常に評価の高い実用的なセミナーとなっています。経営のセオリーを学んだうえで自社を徹底的に分析し、自社と異なる業種のモデルケースからものごとの本質を見出し自社に当てはめる訓練をして、異なる考えを持つ他者に自分の意見を効果的に伝え議論を通じて1つの結論を導き出すトレーニングをします。
経営者としての人材育成、経営に必要な一般知識やスキルを効率よく習得でき、後継者同士の交流を通して、経営に必要なネットワーク(人脈)も築けます。
経営革新塾(全国の商工会議所・商工会実施)
経営革新塾は、全国の商工会議所や商工会がそれぞれ実施している若手後継者向けのセミナーです。それぞれの商工会議所や商工会が実施しており、テーマが異なります。経営計画策定や事業戦略など経営に関わる講座や、決算書の見方などの財務に関わる講座などが、中小企業診断士などの専門家により行われています。
経営後継者研修(中小企業大学校)
中小企業基盤整備機構が運営する中小企業大学校による研修コースです。後継者に必要な基本的なスキルや知識を習得できる内容となっており、42年の実績がある研修です。
この研修は、全日制で10ヵ月間実施されます。経営者としてのスキルや知識を総合的に学ぶことができ、経営に活かせる実践的な能力を身につけることを目的としています。後継者同志のディスカッションや実習を行うことでコミュニケーション能力が高まり、理論的に考える力と相手に伝えるコミュニケーション力が飛躍的に向上します。
卒業生は800名以上で、業界・業種を超えた仲間は、卒業後もお互いに刺激し合い、切磋琢磨できる生涯の学びあう人脈となります。
まとめ
本日は後継者の育成について確認しました。後継者の育成は長いスパンで考えないといけないものになります。後継者はもちろん現経営者としても、息の長い計画となり、相談する相手も必要になるのではないでしょうか。さいきコンサルティングでは伴走型で、後継者はもちろん、現経営者と話し合いながら事業承継を進めていきます。
広島における事業承継に関わるご相談は、お気軽にさいきコンサルティングまでお問い合わせください。
次回は、廃業について確認していきます。
それでは、また。
- この記事を書いた人
- 中小企業診断士/事業承継士
- ソニーの国内販売会社に38年間勤め、営業・マーケティング・マネジメントに携わる。量販本部担当を12年するほか、ソニーショップの経営支援などを行う。2021年より「さいきコンサルティング」を開業。
さいきコンサルティングでは、事業承継に関わるご提案および解決に向けて伴走型で支援をしていきますが、弁護士、税理士などの独占業務など、業法に抵触する職務をすることはありません。