遺言書の必要性のキャッチ画像

本日は遺言書の必要性について考えてみたいと思います。

あなたは今おいくつでしょうか?例えば60歳だとすると平均的な寿命からすると、まだまだ20数年もの時間があるから遺言書なんて大丈夫などと思っていないでしょうか。年齢を重ねると万が一ということが起こる可能性が高くなるのは言うまでもありません。いま社長であるあなたが亡くなった際に残された後継者を含む親族がどうなるのか考えて対策をしておく必要があります。これは家族はもちろん会社における一番のリスク管理であり、BCP(事業継続計画)であると言えるのではないかと考えます。

本日は突然社長がいなくなった際に起こる事業承継におけるトラブルについて確認します。

もしもの時の想定されるトラブル

トラブルで悩むイメージ画像

現在の社長にもしものことがあった場合には相続が発生します。このとき遺言書がないとどうなるでしょうか。残された親族はどうしたらいいか迷ってしまいます。まず残された遺産をどう分けるのかという現実に直面します。遺言者がない場合は、相続人が遺産を相続するために遺産分割の手続きをする(遺産分割協議)必要が出てきます。相続財産は、自社株を含め、預金、不動産、また、自社株以外の有価証券、会社への貸付債権など、さまざまなものがあることが想定されます。たくさんある中で、どの資産を誰がどれだけ相続するかを、相続人同士で話し合い決めていくことになりますが、この手続きである遺産分割協議は全員が合意しないと終わらないため、時間がかかることが想定されます。

時間がかかることによるトラブルや遺産分割協議後に懸念されるトラブルについて確認します。

事業の継続性が難しくなる

事業の継続のイメージ・キャッチ画像

まず相続財産としての自社株ですが、遺産分割協議が終了しないと、自社株は相続人全員で共有することになります。議決権の行使には、共有する者のなかから議決権を行使する人を1人決め、その人の氏名を会社に通知する必要があります。この通知がなければ議決権行使することができません(会社法106条)。

例えると、相続人が2人の場合は合意できないと、議決権を行使できません。3人いる場合は、権利行使者の指定は持分価格に従いその過半数で決められるので(最高裁第三小法廷平成9年1月28日判決)、後継者以外の2人が結託して議決権を行使されることになると、後継者に不利な議決をされてしまう可能性も出てきます。

また会社の重要事項を決定する株主総会ですが、開催にあたり定足数に達しないと開催することができません(会社法309条)。 定足数に達するには、普通決議の場合でも議決権数の過半数を持つ株主の出席が必要となります。議決権数には相続株式を分母に入れて計算しますので、準共有となったため議決権を行使できない株式が過半数を占める場合、株主総会の開催自体もできなくなり、事業の継続が困難となります。

経営権/事業用資産が分散してしまうリスクがある

株式分散のリスクを表すイメージ画像

事業承継では、後継者が円滑に経営を行うためには、後継者に自社株を集中させる必要があります。2/3以上が望ましいですが、最低でも1/2以上は欲しいとことです。

遺産の中で自社株以外に現金や有価証券などの現金化できる資産が十分あれば問題ありませんが、遺産の大半が自社株となる場合、遺産分割協議で後継者に自社株を集中して相続させることに対してなかなか合意が得られず、自社株が各相続人に法定相続分で分配されてしまい、経営権が分散する可能性が出てきます。

また、先代経営者が個人所有するの土地や建物を会社に事業用資産として賃貸していた場合に、自社株を後継者に集中して相続させると、この個人所有の土地や建物が、後継者以外の相続人に法定相続分が分配される可能性も出てきます。さらに相続人が複数いる場合には共有されることにもなります。この土地や建物を売却されてしまうと第三者に所有権が移るなど、安定した事業運営ができなくなる可能性が出てきます。

議決権の行使の為、分散した株を会社が買い戻す際には、多くの資金が必要になりまし、建物や土地などを買い取るにも資金が必要となります。これらを実行する場合に、会社に十分な資金がない場合は、結果的に会社の資金繰りを悪化させる原因ともなり、事業の継続性が困難になる可能性も出てきます。

遺言書作成による対策

遺言書を書くイメージ画像

これら想定されることを避けるための対策として、遺言書を作成し、相続財産の相続分の指定をしておくことで回避することができます。

何をおいても、万が一があったときに現社長の想いを残された親族に伝えることができる手段となりますので、これを作成することは非常に重要ではないでしょうか。

遺言書の作成時に注意することは、後継者に安定した経営ができるように自社株を集中させることはもちろんですが、後継者の納税資金の対策も考えること、後継者以外の相続人に対しては遺留分を侵害しないようにすること、などに注意する必要があります。

遺留分を侵害した遺言書が無効になることはありませんが、遺留分を侵害された相続人は遺留分を侵害された金額の請求をする権利がありますので、争族に発展し裁判などのトラブルになる可能性があります。その場合、後継者は代償としての支払いが必要になりますので、事前に想定して準備しておく必要があります。

後継者の納税資金や遺留分侵害の代償分にあたる資金の捻出には、保険という手法もあげられます。

後日日を改めて確認していきたいと思います。

※遺留分とは、法定相続人に保障されている最低限の取り分の権利です。

本日のまとめ

万が一のことを考えると、早期に遺言書を作成して、対策を講じる必要があることが確認できました。これには後継者のことだけでなく、後継者以外の相続人の遺留分侵害、納税資金の捻出などを含めて、総合的に考える必要があります。またこれは、事業承継における問題の根幹にもなることですが、対策を実施していくには時間がかかることが想定されます。

いち早く事業承継に手をつける必要性をここでも確認することができました。

広島における事業承継に関わるご相談は、お気軽にさいきコンサルティングまでお問合せください。

次回は、遺言書の作成に関して確認していきます。

それでは、また。

この記事を書いた人
佐伯 隆
中小企業診断士/事業承継士
ソニーの国内販売会社に38年間勤め、営業・マーケティング・マネジメントに携わる。量販本部担当を12年するほか、ソニーショップの経営支援などを行う。2021年より「さいきコンサルティング」を開業。

さいきコンサルティングでは、事業承継に関わるご提案および解決に向けて伴走型で支援をしていきますが、弁護士、税理士などの独占業務など、業法に抵触する職務をすることはありません。