株価を引き下げる方法として4回にわたり確認をしてきましたが、5回目の本日が最後となります。
本日は、株価を引き下げる方法の3つ目の方法である「評価方法を変える方法」のもう一つとして、「高収益部門を別会社として分離する」について、確認していきます。
高収益部門を別会社へ分離するメリット
まずメリットについて確認します。この方法による株価引き下げの流れとしては、高収益部門を別会社へ分離してすることで、従来会社を低収益にさせ、類似業種比準価格による株価を引き下げ、分離した会社の株式評価も類似業種比準価格で評価し、さらに株価の含み益から実効税率分を控除することで下げることになります。この方法でさらにメリットがあるのは、高収益部門を譲り受けた事業会社の業績が伸び続け内部留保の蓄積により株価が上昇したとしても、含み益から実効税率分を控除することができるので、今後も株価の上昇が抑えられる可能性が大きいことがメリットとなります。
高収益部門を別会社として分離する方法
高収益をあげている部門を別会社へ分離する主な方法として、「後継者を株主とする会社を設立させ事業譲渡をする方法」と「分社型新設分割による方法」の2つについて確認していきます。
1.後継者を株主とする会社を設立させ事業譲渡をする方法
まず、後継者を株主とする事業を譲り受ける会社を設立します。その後に、高収益部門の資産、負債等を含めた事業に関わるものすべてを譲渡します。これには事業譲渡契約の締結が必要となります。事業譲渡には、得意先、仕入先、取引銀行の預金、貸付金などや従業員を含み引き継ぐことになりますが、原則として、債権、債務の譲渡は、当然債権者及び債務者の個別の承諾が事前に必要になります。また得意先、仕入先と新たな契約を結ぶ必要があります。さらに従業員も個別の同意を得る必要があります。資産、負債などは時価で評価して譲渡しますが、この際、土地などに含み益がある場合は譲渡する会社に譲渡益が生じるため課税が発生してしまいます。その場合、賃貸にすることで対策を行います。
残る従来の会社は、これらの不動産の賃貸や管理、総務・経理などの事務を行う会社として存続させますが、利益が出ない低収益会社として存続させ、配当もしないようにします。そうすることで、類似業種比準価額方式による株価の価格を引き下げます。
なお、高収益部門の営業譲渡は、会社法上事業の重要な一部の譲渡になりますので、株主総会の特別決議による承認が必要となります。
2.分社型新設分割による方法
高収益部門を事業とする子会社を新設分割にて設立し、従来の会社はその子会社を100%支配する親会社とします。従来の会社は不動産の所有・管理や管理、総務・経理などの事務を行う会社とします。事業譲渡の場合と同様に、親会社は利益が出ない低収益会社として存続させ、配当もしないようにします。そうすることで、類似業種比準価額方式による株価の価格を引き下げます。
なお、新設分割においても、株主総会の特別決議による承認が必要となります。
事業承継のタイミングについて
これらの方法ですが、事業承継のタイミングが異なりますので、これについて確認していきます。1の場合は、後継者が会社を設立して事業譲渡を行った時点で高収益部門の事業承継は終わりとなりますが、低収益部門であるもともとの会社が残っています。この事業承継は事業譲渡を終えた後の決算以降で株価が下がったタイミングで行うことになります。2の場合、事業承継は終わっておらず、親会社となった低収益のもともとの会社の経営はそのままとなっています。子会社が開業して3年以降の最初の決算で株価が下がるタイミングで事業承継をするのがベストなタイミングではないでしょうか。
これらのタイミングで事業承継を行う際に、経営承継円滑化法の特例納税猶予制度を活用するということも考えられます。親会社の株式をこのタイミングで生前贈与しておけば、その後、子会社がどれだけ業績を上げ、子会社株式の評価がいくら上がろうとも、問題になる可能性が低くなります。また株価引き下げ後に特例納税猶予を活用することで、万が一に納税猶予が解除された場合に納税となる税額を少なくすることがで、その際のリスクを大きく軽減することもできます。
※経営承継円滑化法の特例納税猶予制度の利用にあたっては、親会社が「資産管理会社」に該当しないようにすることに注意する必要があります。
※従業員数を35人以上抱え、会社規模を大会社にすることが有利となります。
※お役立ち情報の「経営承継円滑化法の特例承継計画の提出期限1年延長」「経営承継円滑化法における遺留分に関する民法の特例」「経営承継円滑化法のまとめ」をご覧ください。
その他の方法について
今後の株価の値上がりを考えて、早めに事業承継をしておいた方が良い場合に行うといい方法です。高収益部門が好調で引き続き売上および収益の拡大が見込める場合、長期的にみると株価が高くなってしまい事業承継を行う際にさらに高い贈与税または相続税となることが見込まれます。
この方法により株価が高くなる前の価格で事業承継が行えるので考えてみる価値のある方法といえます。
後継者を株主とする持株会社を設立し株式を譲渡する方法
まず、後継者を株主とする持株会社を設立します。この持株会社にもともとの会社(=事業会社となる会社、以下事業会社)の株式を現経営者から買い取り、事業会社を子会社とします。事業譲渡と違い、分割する事業を包括的に承継することができ、個別の同意は必要ありません。その代わりに債権者保護手続きが必要となります。また従業員の対応も個別に同意を得る必要はなく、労働契約承継法による手続きを行い承継します。さらにM&Aでの会社分割による売却と違い簿外債務などを気にする必要もありません。
これによる効果は、持ち株会社を設立した当初は持株会社と事業会社の株式評価は同じですが、長期間にわたって事業会社が収益を蓄積することで生じる株式の含み益に対して実効税率分が控除されることで、その分が節税効果として表れるということです。
早めにこのスキームで事業承継を行うことで結果的には低い株価で事業承継が行えるということに繋がります。
高収益部門を別会社へ分離する方法の注意点
これらを活用する際に注意する点は下記の通りです。
- 一定の企業規模が必要なこと
- 開業3年未満は純資産方式となること
- 事業譲渡および株式の買い取りに資金が必要なこと
- 土地保有特定会社および株式保有特定会社にならないように注意すること
一定の企業規模が必要なこと
一般的に株価は純資産価格方式より類似業種比準価格の方が低くなるため、親会社および子会社ともに、類似業種比準価格方式による株価の評価のウエイトを高くするには、会社の区分が小→中(小・中・大)→大となることが望ましいです。別会社によるメリットを最大化させるためにも、一定規模が必要となります。
開業3年未満は純資産方式となること
開業3年未満の会社は純資産価格方式で強制的に評価されるので、このスキームを使ってすぐに効果が最大限となることはありません。高収益部門を別会社とする準備から考えると、相当程度の期間が必要となり、注意が必要となります。
事業譲渡および株式の買い取りに資金が必要なこと
別会社を設立して事業を譲渡する場合、また持株会社を設立して現在の会社の株式を買い取り子会社とする場合とも、買い取る資金が必要となります。一般的に後継者がこの資金を保有している場合はないと思われますので、資金調達する必要があります。これには事業会社が生み出す収益や配当を担保に金融機関から買い取り資金を融資してもらうのが一般的ですが、それには事業会社の将来的な事業計画を明確にする必要があります。事業承継するにはこれらが明確になっているのが前提ではあるものの、一定程度の準備する手間が必要であり、なければ作成する必要があります。
土地保有特定会社および株式保有特定会社にならないように注意すること
土地保有特定会社および株式保有特定会社になると株式の評価は純資産価格方式に強制的に適用されてしまうので、株価引き下げの効果が薄くなります。土地保有特定会社については含み益の実効税率分の控除もなくなりますので注意が必要です。
※お役立ち情報「含み益の大きい不動産を移転した子会社を設立して株価を引き下げる方法」をご確認ください。
本日のまとめ
高収益部門を別会社として株価を引き下げる方法として、主な方法を本日確認介しましたが、一朝一夕にできるものではなく、一定程度の準備期間が必要なこと、また効果が表れるには一定程度の期間が必要なことが分かりました。事業承継を円滑に進めるには、やはり早めに手を付けることが重要だと、ここでも確認できました。
まずはお気軽にご相談いただき、課題を明確にしていくことから始めてはいかがでしょうか。
広島における事象承継に関わるご相談は、お気軽にさいきコンサルティングまでお問合せください。
次回は、「遺言書」について確認していきたいと思います。
それでは、また。
- この記事を書いた人
- 中小企業診断士/事業承継士
- ソニーの国内販売会社に38年間勤め、営業・マーケティング・マネジメントに携わる。量販本部担当を12年するほか、ソニーショップの経営支援などを行う。2021年より「さいきコンサルティング」を開業。
さいきコンサルティングでは、事業承継に関わるご提案および解決に向けて伴走型で支援をしていきますが、弁護士、税理士などの独占業務など、業法に抵触する職務をすることはありません。