株価引き下げの方法④ 含み益の大きい不動産を移転した子会社を設立するのイメージ画像

株価を引き下げる方法として、大まかに区分けして、1.会社価値を下げる方法、2.発行株式数を増やす方法、の2つについてご説明してきました。本日は3つ目の、評価方法を変える方法について、具体的に確認していきます。

会社規模の区分を変更する

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未上場の株式の評価方法は、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式を使って評価がされます。事業承継にあたって、先代経営者から後継者に相続や贈与に伴い移転される際に評価される方法は「原則的評価方式」によって行われることが多いというお話を「非上場株式の株価算定について」でお伝えしました。

改めてその方法を確認すると、評価する会社を、大会社/中会社(大、中、小)/小会社と区分して、類似業種比準方式、純資産価額方式、もしくは折衷方式としこれらの割合を調整して株価が算定され評価されます。

一般的には、純資産価額より類似業種比準価額の方が低く算定される場合が多いので、類似業種比準方式を使う割合を多くすると株価の評価が下がります。具体的には、会社区分を、小会社よりも中会社、中会社よりも大会社に変更することで、株価を下げられる可能性が出てきます。

具体的な方法としては、下記の方法が考えられます。

  1. 増資をして純資産を増やす
  2. 同業者との合併をするなど純資産を増やす
  3. 新規事業などを展開するなど取引金額を増やす

※従業員数基準を満たすことが必要です

これらの方法は、手法としては可能ですが、そもそも経営戦略をどうするのかが前提あるべきであり、事業承継に伴う株式の評価を目的として行うのは正しくありません。よってもって、そのまま使えるかどうかは、会社の状況に影響されることが多いのが現状です。現実的には使えないことが多くなるのではないでしょうか。

その他の評価方法を変える手法

会社の区分を変える方法以外の評価方法を変える手法がありますので確認していきましょう。

  1. 含み益の大きい不動産を移転した子会社を設立する
  2. 高収益部門を別会社として分離する

いずれも別会社を設立して株式の評価を変える方法となります。

本日は、このうちの、1.含み益の大きい不動産を移転した子会社を設立するについて確認していきます。

含み益の大きい不動産を移転した子会社を設立する

含み益の大きい不動産を移転した子会社を設立するイメージ・キャッチ画像

この方法は、会社の規模に比べて土地など不動産の比重が大きい、かつ土地の含み益が多額にある場合で活用できます。市内の中心部に会社の事務所や工場、または店舗などがある老舗などで、その取得が以前のものであり、含み益が発生している場合が想定されます。

純資産価額方式による株式の評価額を下げることが対策となります。

具体的な方法は、土地の含み益を反映させないよう、本体会社の不動産を分離した子会社を設立し、不動産を直接保有するのではなく、子会社を通して間接に所有するようにします。

この子会社の株式の評価を、純資産価額より低い類似業種比準価額が適用されるようにすれば、本体会社の純資産価額が下がり、本体会社の株式の評価も下げることができます。

また、純資産価格方式での評価となった場合も含み益37%控除が使える場合は、その分株価の引き下げ効果が見込めます。※1

この方法は、一時的な引下ではなく、長期的にその効果を得られることができるので、長期的に見ても良い方法ではないでしょうか。

※1 後述の注意点をご確認ください

<含み益37%控除とは>

含み益を抱えている場合、実際株主が得る金額が法人税額を差し引いた額となることから、その含み益から法人税額相当を差引いた額が相続税評価額となる税額の評価です。

子会社を設立する際の注意点

含み益の大きい不動産を移転した子会社を設立する際の注意点のまとめのキャッチ画像

この方法を取る場合の注意点をまとめると下記の通りとなります。

 

 

適格分社型分割の要件を満たすこと

「適格要件」と呼ばれる要件を満たさないと非適格分社型分割となり、移転する資産・負債(のれん含む)の含み損益の精算が行われ、課税が発生してしまいます。

土地のみの分離ではなく、建物、機械、備品等を含めた子会社設立とする必要があります。

税理士などに詳細を確認して進める必要があります。

子会社設立時の注意点

  • 土地保有特定会社にならないようにする
  • 分割設立後3年経過しないと類似業種比準価額が適用されない
  • 類似業種比準価額を下げるために、配当はゼロにし、利益は低く抑えるようにすること

土地保有特定会社に該当すると、純資産価額による評価方法が適用されます。そして、土地保有会社が保有している非上場会社の株式評価は、子会社株式の純資産価額の含み益37%控除が適用されなくなり、評価を下げる効果が全くなくなります。

他の資産も含めて負債付きで分社する、判定時期の直前ではなく長期借入金により総資産を増やすことなどで、総資産中に占める土地保有割合を低下させます。

また、開業後3年未満の会社等の株式の評価は相続税評価額で計算した純資産価格となりますので、注意が必要です。

<土地保有特定会社とは>

会社の区分に応じて、相続税評価額による純資産額に占める土地等の相続税評価額が一定の割合以上に該当する会社のことをいいます。

※大会社は70%以上、中会社は90%以上、小会社は業種や総資産規模により基準が変わります。

詳細は、税理士等にご確認ください。

親会社における注意点

  • 本体会社は株式保有特定会社に該当しないようにすること
  • 類似業種比準価額を下げるために、配当はゼロにし、利益は低く抑えるようにすること

株式保有特定会社に該当すると、純資産価額による評価方法が適用されますので、恩恵が受けられなくなります。

<株式保有特定会社とは>

相続税評価額による総資産額に占める株式等の相続税評価額が50%以上の会社のこと。

本日のまとめ

含み益の大きい不動産を所有している会社は、それらの資産を移転した子会社を設立することで、株式の評価を下げる方法があることを本日確認しました。ただ、この方法も短時間でできる訳ではありませんので、早めに計画していくことが必要となります。早期に取り組む必要性がここでも確認できました。

広島における事業承継に関わるご相談は、お気軽にさいきコンサルティングまでお問合せください。

次回は、高収益部門を別会社として分離する方法について確認いたします。

それでは、また。

この記事を書いた人
佐伯 隆
中小企業診断士/事業承継士
ソニーの国内販売会社に38年間勤め、営業・マーケティング・マネジメントに携わる。量販本部担当を12年するほか、ソニーショップの経営支援などを行う。2021年より「さいきコンサルティング」を開業。

さいきコンサルティングでは、事業承継に関わるご提案および解決に向けて伴走型で支援をしていきますが、弁護士、税理士などの独占業務など、業法に抵触する職務をすることはありません。