本日も、株価を引き下げる具体的な方法について考えてみます。
まず、株価引き下げの大まかな区分としては、下記の3つの方法があることを確認しました。
※前々回のお役立ち情報「株価対策が必要な理由」のおさらいです。
- 会社価値を下げる方法
- 発行株式数を増やす方法
- 評価方法を変える方法
前回は会社価値を下げる方法の具体的について確認しましたが、本日は2番目の発行株式数を増やすことによる株価引き下げについて考えていきます。
発行株式数を増やして株価を引き下げる方法
発行株式数を増やして株価を引き下げるということは、どういうことになるのでしょうか。
株価は、株主価値÷発行株式数で計算されますが、そのままの株価で株式を発行しても株価が下がるわけではありません。現在の株価より低い価格で発行することにより株価を下げることができるのです。
ただ、そうした場合、安易に時価より低価で第三者割当増資などを行うと、時価との差額が「贈与」と認定されてしまい、第三者割当増資を受けた株主には課税の可能性が出てきます。
これらを解決できる方法として有効なのが、下記の2つの方法があげられます。
- 中小企業投資育成株式会社による出資
- 従業員持株会による株式保有
本日は、このうちのひとつである、中小企業投資育成株式会社に出資してもらう方法を考えてみたいと思います。
中小企業投資育成株式会社とは
中小企業投資育成株式会社は、中小企業投資育成株式会社法に基づく国の政策実施機関として設立されています。業務としては、中小企業が発行する株式・新株予約権付社債などの引受けにより長期安定資金を提供するとともに、コンサルティング・求人支援などトータルソリューションの提供により優良企業への成長をサポートしています。
地域別に会社が分けられており、東京中小企業投資育成㈱、名古屋中小企業投資育成㈱、大阪中小企業投資育成㈱の3社があり、西日本エリである広島は、大阪中小企業投資育成㈱が対象となります。
投資育成会社の特徴
投資育成会社は、出資するとその企業の経営にどうかかわってくるのでしょうか?
最初そのように疑問に思われる経営者の方が多いのではないでしょうか。
投資育成会社は自己資金で出資を行いますが、出資先企業の自主性を尊重するそうです。
友好的な株主として、また現経営者に寄り添う与党株主として、中長期にわたり安定的に経営陣の後方支援を行うようですので、物言う株主として経営に口を出されるのではないかという心配は無用のようです。そのような方針のもとに出資されますので、役員などの派遣をされることはありません。
ただし、出資ということで、配当を期待する株主として、安定した配当を求められるようです。
投資育成会社の投資に関して
実際に投資を受けるにあたって注意する点は下記の通りです。
■対象企業
- 増資前資本金3億円以下
- 公序良俗に反する事業、投機的な事業以外業種の制限なし
- 株式上場は義務付けない
■投資の上限
- 増資後の議決権個数の50%以内(平均30~40%)
■投資後に必要なこと
- 安定的な配当を行う
- 定時株主総会の開催をする
- 決算内容、総会の議案などに関する事前の説明を行う
審査について
本日は株価引き下げの方法でご紹介しておりますが、経営における事業投資の資金調達として第三者割当増資を行うにあたり中小企業投資育成株式会社に依頼するというのが、本来の主旨になるといえます。事業承継にあたり、経営革新を行ううえで、必要な事業計画を策定して依頼していくことが、本来の道筋になることは言うまでもありません。これを前提としておきましょう。
実際、中小企業投資育成株式会社へ投資を申し込むと、経営方針、事業内容、事業計画、収益見通し等について説明を求められます。
また、下記の資料の提出が必要となります。
■投資決定に必要な資料
- 最近3期分の決算書
- 株主名簿
- 事業計画書
- 事業経歴書
- 役員等の略歴
- 製品カタログ等
しっかりとした、投資計画を事前に作成しておくことが必要になります。
投資育成会社が引き受けする株価算定
中小企業投資育成株式会社が引き受けする株式の価額は、国税庁と中小企業庁が合意した算式により算定されます。簡単に説明すると、1株当たり予想利益をもとにした収益還元方式となります。
この株価での引き受けは、税務上も適正な時価によるものとして取り扱いがされ問題となることはありません。一般的に、収益還元方式による株価は時価より低めに算定されることが多いので、この価格で引き受けてもらうことにより時価との差額分が株価を引き下げる効果となります。
※国税庁ホームページ 「中小企業投資育成株式会社が第三者割当てに基づき引き受ける新株の価額および保有する株式を処分する場合の価額にかかる課税上の取扱いについて」
■株価計算式
※配当性向、期待利回りについては、やや複雑な計算で求められます。ここでは割愛しますが、ご確認されたい方は、上記の国税庁ホームページのリンク先に記載されている箇所をご覧ください。
出資を受けるメリット/デメリットのまとめ
本日、ご説明した、中小企業投資育成株式会社の出資を受けるメリット/デメリットをまとめると下記の通りになります(株価引き下げを除く)。
■メリット
- 資本金(純資産)となり自己資本が充実する。
- 増資で得た資金は、無担保・無保証の長期安定資金として活用できる(株式の資金調達)。
- 長期安定的な与党株主であり、社外株主等の持ち株比率は下がり、現経営者の経営権が強化される
■デメリット
- 毎期安定的な配当を要求される
- 定時株主総会の開催
- 決算・議案の事前説明が求められる
本日のまとめ
本日ご説明した中小企業投資育成株式会社の出資による株価引き下げの方法ですが、根本的な問題としては、審査を通せるだけの、経営内容および投資の事業計画を持ち合わせているかということになります。一般的に投資はリスクが高くなりますので、借入による審査より厳しくなります。経営改善を行ったうえで、しっかりとした事業計画を立てて、新たな事業投資に必要な資金として、中小企業投資育成株式会社へ依頼するのが、本来とるべき道筋だと考えます。
さいきコンサルティングでは、経営革新×事業承継クリエーターとして、経営改善および事業承継をワンストップで進めていきます。広島における事業承継に関するご相談は、お気軽に、さいきコンサルティングまでお問い合わせください。
次回は、発行株式数を増やして株価を下げる方法のもう一つ、従業員持株会について考えてみたいと思います。
それでは、また。
- この記事を書いた人
- 中小企業診断士/事業承継士
- ソニーの国内販売会社に38年間勤め、営業・マーケティング・マネジメントに携わる。量販本部担当を12年するほか、ソニーショップの経営支援などを行う。2021年より「さいきコンサルティング」を開業。
さいきコンサルティングでは、事業承継に関わるご提案および解決に向けて伴走型で支援をしていきますが、弁護士、税理士などの独占業務など、業法に抵触する職務をすることはありません。