本日は、株価を引き下げる具体的な方法について考えてみます。
前回のお役立ち情報「株価対策が必要な理由」でお伝えしたとおり、株価引き下げの方法としては、大まかに区分すると下記の3つの方法があることを確認しました。
- 会社価値を下げる方法
- 発行株式数を増やす方法
- 評価方法を変える方法
本日は、この中で、会社価値を下げる方法について具体的な内容を確認します。
未上場株式の評価方法については、10月17日のお役立ち情報「非上場株式の株価算定について」でお伝えしたとおり、事業承継における株価計算においては、財産評価基本通達による「取引相場のない株式の評価」により実施されることが多いとお伝えしました。
実際の計算上は、大会社・中会社・小会社に区分して、類似業種比準方式と純資産価格方式の割合を調整し計算しますが、この際に計算に使う要素を考慮することで、株価を下げることができます。
1.類似業種比準方式
- 一株あたりの配当金額
- 一株あたりの利益金額
- 一株あたりの簿価純資産価額
2.純資産価格方式
- 相続税評価額により評価した純資産価額
- 発行済み株式数
それでは、これらの要素に注目して、株価引き下げの具体策について確認していきましょう。
(発行済み株式総数を除く)
会社価値を下げることによる株価引き下げ
会社価値を下げる引き下げることにより、先ほど説明した個々の要素の数値を変えていき株価を引き下げる方法は下記の通りです。
- 先代経営者に退職金を支払う
- 役員報酬を増やす
- 配当金を引き下げる
- 不動産を購入する
- 設備投資を行う
- 不良債権を処分する
- 含み損のある資産・不良資産を処分する
- 生命保険を上手に活用する
- オペレーティング・リースを活用する
- 不動産小口化商品を購入する
それでは、一つひとつ確認していきましょう。
1.先代経営者に退職金を支払う
まず一番に上げられるのが退職金=役員退職慰労金の支給です。
事業承継のタイミングを見て先代経営者に退職金を支払います。一般的に先代経営者の退職金は多額になることが多く、その期の利益が大幅に減額、もしくは赤字決算となり、会社の純資産を減らすことができます。その決算の翌期に株価が低くなったタイミングで贈与すれば円滑な株式の移転ができます。ただし、適正な退職金の支給をしなければ、損金と認められない場合もありますので注意が必要です。これについては別途お役立ち情報でお伝えいたします。
2.役員報酬を増やす
役員報酬を適正な範囲内で引き上げて支給します。これにより会社の利益や純資産を減らしていきます。ただし、役員退職慰労金と違い、短期間で純資産を減らすことはできませんので、目標とする株価を考え、中期的に見て行う必要があります。また他との併用を考える必要もあります。そして、この役員報酬は役員退職慰労金を計算する退職時の最終報酬月額にもつながりますので、退職金の引き上げにもなります。
ただし注意が必要なのは、不相当に高額な部分は損金算入が認められないこともありますので、適正な額を設定することが必要です。また役員報酬を増やすことは、役員個人の給与所得が増えることになるので所得税が増えてしまいます。個人の総所得を考えて設定する必要があります。
適正な範囲での役員報酬の引き上げについても別途お役立ち情報でお伝えします。
3.配当金を引き下げる
資本金が少ない中小企業で配当を実施すると、相対的に配当率が高くなり、結果株価が高くなってしまうケースもあります。このような場合、類似業種比準価額方式で自社株を評価する要素である配当金を下げて株式の評価額を下げます。この方式では、直前期末前2年間の1株当たりの平均配当金を使いますので、2年間の配当を下げることが必要です。下げることにより株主への影響を考える場合は、特別配当、または記念配当を実施します(特別配当、記念配当は平均配当の対象にはなりません)。
また、配当をゼロにすることもできますが、他の要素との関係も考慮する必要があります。それは、比準要素3つのうち、2要素がゼロになると、純資産価格方式75%+類似業種比準価格方式25%となるからです。一般的に純資産価格方式の比率が高いと株価が高くなる傾向があるので注意が必要です。ちなみに比準要素3つのうち、3要素がゼロになると純資産価格方式となります。
4.不動産を購入する
不動産を購入して純資産の金額を減らして株価を下げます。あくまでも事業拡大に必要な不動産を購入するというのが健全な手段であり、それが前提となる方法です。
不動産は取得後3年間は時価で評価されますが(詳しい計算は専門家に譲りるとして)、それ以降については一般的に時価より低い価格で評価されることが多いようです。また賃貸用の不動産だと、土地については貸家建付地としての評価減、建物については貸家としての評価減の適用でき、さらに評価額が下がります。
こちらも中長期的にみて、事業拡大を考えたうえで、必要な投資として不動産に投資した3年後に事業承継を行うと、株価引き下げにより、円滑な株式移転が行えます。
5.設備投資を行う
こちらも中長期的な成長戦略を踏まえての話になりますが、経営革新を推進するための設備投資を事業承継前に行うことにより、株価の引き下げが実現できます。設備投資により、これまでの機械や建物などの除去損が計上できる場合があります。また、大型の設備投資による減価償却費を計上することで大きく利益を減らすことができます。さらにこの設備投資が特別償却に該当する場合は、さらに引き下げることが可能です(類似業種比準価格方式。純資産価格方式には適用されません)。
6.不良債権を処分する
不良債権の処理も事業承継前に行なえば、後継者が事業承継しやすい環境整備が行えますので、先代経営者が実施しておくのが望ましいです。不良債権を貸倒損失として計上して、会社の利益や純資産を減らし、株価の引き下げを実現します。
ただし、一定の要件を満たさないと、損金として認められない場合も発生しますので、債務者の資産状況及び支払い能力からみた回収の可能性の判断を税理士と確認しながら進める必要があります。
7.含み損のある資産・不良資産を処分する
値下がりしている不動産の売却、上場会社の株式、ゴルフ会員権など、含み損のある資産を売却して、損失を計上します。また、不要となった資産(土地や在庫など)を廃棄処分して、除去損を計上します。これにより、会社の利益や純資産を減らし、株価の引き下げを実現します。
ただし、土地の売却先が関連会社である場合は、売却価格に注意が必要です。特に100%子会社である場合は税務上売却損が計上できない場合があるなど注意が必要です。税理士に相談しながら進めていく必要があります。
8.生命保険を上手に活用する
生命保険の活用は、2019年の通達改正以前と比べると、有効性は著しく低下したものの、今も一部の損金が認められる保険が存在し、純資産の引き下げに有効性があるなど、上手に活用すれば、株価の引き下げが実現できます。保険についても、現在有効な手段だと考えられますので、活用の余地があります。
<保険活用のメリット>
- 純資産価格の引き下げられる
- 従業員の福利厚生に活用できる
- 退職金の資金源に使える
- 後継者の納税資金に充てられる
<2019年通達改正>
2019年の通達改正を確認しましょう。まず、最高解約返戻率が50%以下の定期保険は、保険期間が満了するまでずっと保険料の全額を損金に計上することができます。
最高解約返戻率が50%超~70%以下の定期保険では、保険期間の当初40%の期間を、支払保険料のうち40%を資産計上、残り60%を損金計上の処理ができます。当初40%期間が過ぎれば、その後は保険料全額を損金計上できます。そして、最初に資産計上分は、保険期間の75%が過ぎたあとに取り崩ができます。
最高解約返戻率が70%超~85%以下の定期保険では、保険期間の当初40%の期間を、支払保険料のうち60%を資産計上、残り40%を損金計上の処理ができます。当初40%期間が過ぎれば、その後は保険料全額を損金計上できます。そして、最初に資産計上分は、保険期間の75%が過ぎたあとに取り崩しができます。
最高解約返戻率が85%を超える定期保険は、保険料の取り扱いが複雑になるので、ここでは割愛しますが、以前のように短期間に効果は出ませんが、中長期でみると使えないことはありません。先代経営者の退職金の資金源に使ったり、後継者の納税資金に使うなど、中長期的な計画性を持って、あらかじめ計画をすると有効に活用できると考えます。
<評価額引き下げによる株価引き下げ>
純資産価額を引き下げ、株式の評価を引き下げる効果がある保険も存在します。資産の相続税上の評価額がポイントとなりますが、積立型の生命保険料の掛け金は「保険積立金」という勘定科目で貸借対照表(B/S)に資産として計上され、相続税上の評価は「解約返戻金」の額によって行われます。保険の種類によりますが、保険積立金の額と比べて、解約返戻金の額が大幅に低い「低解約返戻金」の場合は、当初含み損が発生することで、相続税上の純資産価格が引き下がることにより、株価を引き下げる効果が発生します。これにより、短期間で株価を引き下げる効果が出てきます。
<従業員の福利厚生に活用する>
従業員の福利厚生に活用する保険の方法としては、養老保険の活用があげられます。一定期間内に被保険者が死亡した場合には、死亡保険金が支払われ、満期になった場合には満期保険金が支払われる保険です。貯蓄性の高い保険であり、通常は全額積立金処理となりますが、一定の要件を満たす場合に、保険料の1/2が損金に算入できます。従業員の福利厚生を図りながら、退職金の準備資金と利益の繰延べを図ることができます。
保険の活用については、また後日「お役立ち情報」で取り上げたいと思います。
9.オペレーティング・リースを活用する
オペレーティング・リースとは、航空機、船舶、プラント設備等の大口取引に用いられるリース・ファイナンスです。 投資家は、物件の運用を行うリース事業者と匿名組合契約を結び、物件の購入価額の一定割合を出資※1します。このオペレーティング・リースの特色は、リース収入は毎年定額ですが、リース期間の前半は減価償却費※2※3が多く計上され、投資損益が赤字となり、投資家に出資した割合の損失が分配されます。このことで損失が計上され、大きな節税効果が見込まれます。リース期間の後半およびリース期間満了後に売却代金の出資者への分配が行われるため、事業承継のタイミングに合わせて投資すると、節税および株価引き下げと後の運転資金および設備資金の確保につながります。
ただし、注意点としては、出資から事業終了までの期間が長いことで、この期間は解約できないなど、本業の事業の安定性が求められること(時間的な余裕)、また、$ベースの投資案件が多いことから、分配の利回りが為替により変動するリスクがあること、投資元本自体が100%保証されていることはないことなどがあげられます。
※1実際はリース会社が組成して金融商品として販売されています
※2リース期間が法定耐用年数120%以内、税務上の条件をクリアした賃貸借取引等
※3リース資産は定率法により償却、かつ、リース期間が耐用年数を上回っているから
10.不動産小口化商品を購入する
「不動産小口化商品※1」とは、不動産特定共同事業者※2が高額な都心のオフィスビルやマンションなどの賃貸物件を、投資家に1口100万円~1,000万円などの単位に細分化して、小口化商品として販売し、当該物件から得られる賃貸収入や収益を出資者に分配する商品です。投資家はこの小口化商品を購入することで、その不動産を所有(共有)することになります。
相続税対策としてこの商品が注目されているのは、不動産小口化商品を購入することが、不動産の所有(共有)することになり、不動産小口化商品の財産評価の方法が不動産の評価の方法になるからです。つまり、不動産を直接所有する場合と同じ評価方法になりますので、一般的に、不動産の相続税評価額が実勢価格(時価)よりも低くなりますので、時価と相続税評価額の差額分、相続財産を圧縮できるからです。
※1不動産小口化商品とは、不動産特定共同事業法という法律に基づいた商品です
※2不動産特定共同事業者とは、国交省大臣あるいは都道府県知事の許可を得た事業者をいいます
もちろん、この不動産小口化商品もメリットとデメリットがありますので、下記にまとめておきます。
<メリット>
- 資産価値が高く収益性の高い不動産物件を少額で所有(共有)できる
- 小口で分散できるのでリスクを低減できる
- 相続財産として不動産としての相続税評価額となるので資産が圧縮できる
- 管理・運営は不動産特定共同事業者がするので手間がかからない
- 小口化することで相続時に相続人間での不公平が起きにくい
<デメリット>
- 元本保証がない(不動産の値下がりリスク、不動産特定共同事業者の倒産リスク)
- 対象となる不動産不動産によって小口化商品の換金性が低くなること
「会社の株価を引き下げたい」という目的以外に、「社長交代によって後継者に譲るときに、安定収益源を引き継ぎたい」「役員退職金をもらった使いみちを考え、相続対策として個人的に考えたい」という場合に活用できると考えます。
本日のまとめ
本日は、株価を引き下げる具体的な方法について考えて考えてみました。
前回と同様になりますが、「長期的に見て」対応する必要があるということは変わりません。
事業承継における対策は、それぞれの企業が抱える課題により、対応策が変わってきますので、一概には言えませんが、いち早く取り組むことが円滑な事業承継につながることは変わりません。このお役立ち情報をご覧になられている方は、まずはご相談する一歩を踏み出していただけたらと思います。
広島における事業承継に関わるご相談はお気軽にさいきコンサルティングまでお問い合わせください。
次回は、株価引き下げの具体的な方法のその②として、発行済み株式数を増加させる方法について確認いたします。
それでは、また。
- この記事を書いた人
- 中小企業診断士/事業承継士
- ソニーの国内販売会社に38年間勤め、営業・マーケティング・マネジメントに携わる。量販本部担当を12年するほか、ソニーショップの経営支援などを行う。2021年より「さいきコンサルティング」を開業。
さいきコンサルティングでは、事業承継に関わるご提案および解決に向けて伴走型で支援をしていきますが、弁護士、税理士などの独占業務など、業法に抵触する職務をすることはありません。