本日は、事業承継はじめの第一歩と題してお伝えします。
事業承継は会社にとって非常に重要なことなのに、なぜ進まないのか、どんなことを考えないといけないのか、そして何から手をつけたら良いのかという点についてお話しいたします。
本日のゴールは、事業承継の必要性を認識していただき、まず手をつけていただくということになります。
データから見る現在の事業承継
現在は事業承継を取り巻くデータの公開がたくさんされています。
これらのデータを一つひとつ取り上げ解説することは、ここではいたしませんが、これらのデータの中から円滑な事業承継を進めるうえでの気づきとなるデータを取り上げお話いたします。
ここから導く結論は、あくまでも私が考える仮説の一つですので、その点ご注意ください。
中小企業の経営者年齢分布(年代別)
出典:中小企業庁「中小企業白書」((株)東京商⼯リサーチ「企業情報ファイル」再編加⼯)
2000年からの調査になりますが、年を追うごとに山となるピークが右にずれております。これは平均年齢徐々に高くなっていることになります。2020年は「60歳~64歳」、「65歳~69歳」、「70歳~74歳」の構成比が高くなっており、合計すると約4割以上を占めています。
社長交代率(1900-2021 年)
出典:(株)帝国データバンク「全国社長交代率」
実際に社長が交代している率はこのグラフの通り、2021年は3.92%となっており、コロナ禍で若干増えているものの低位で推移しているのが現状となっています。
事業を引き継いだきっかけ
出典:中小企業庁委託「企業経営の継続に関するアンケート調査」(2016年11月、(株)東京商工リサーチ)
実際に事業を引き継いだきっかけについては、規模が小さくなるほど、「先代経営者の死去」や「先代経営者の体調悪化」という不測の事態によるもので行われているケースが多くなっています。また、それ以外については、先代経営者の引退に伴うものとなることから、先代経営者が早期に引退を決めるという決断が、計画的かつ円滑な事業承継につながっていくのではないかと考えます。
後継者の移行にかかる期間
出典:(株)帝国データバンク「事業承継に関する企業の意識調査」(2020年)
実際に後継者に移行するのに必要な期間の調査結果を見ると、半数以上の方が3年以上と答えており、5年以上かかると回答した方も25%程度いらっしゃいます。各企業における後継者の状況で期間が変わると思われますが、5年から10年を見据えた計画を立てることが必要になると思います。
事業承継後の成長・発展
経営者の交代があった中小企業において、売上高や利益の成長率が高いという結果も出ており、事業承継を円滑に行うことができれば、事業の成長の契機にもなります。またこの結果は、年齢が若ければ若いほど成長率が高いという結果も出ております。若い経営者は新しいことを積極的に学び、チャレンジする姿勢が顕著なことから、これらによる経営革新が成長に結びついているのではないかと考えます。
◆ 事業承継実施企業の承継後の売上高の成長率(同業種平均値との差分)
◆ 事業承継実施企業の承継後の当期純利益の成長率(同業種平均値との差分)
◆ 事業承継時の年齢別、事業承継実施企業の売上高成長率・当期純利益の成長率(同業種平均値との差分)
データから見た事業承継のまとめ
経営者の平均年齢は引き続き高くなっており社長交代が進んでいないこと、計画的な事業承継は規模が小さくなるほど割合が低くなり、死去や体調悪化での交代が多くなること、事業承継に必要な期間は3年以上が半数を占め長期間になる場合が多いこと、そういう中で事業承継をした企業では業績が向上している場合が多く、後継者の年齢が若ければ若いほど好業績であることが分かりました。
早期に取り組む必要性
なぜ多くの経営者が事業承継を後回しにするのか?
本来であれば、1日も早く事業承継に手をつけることが円滑な事業承継には近道となりますが、なぜ多くの経営者は後回しにするのでしょうか。それはおもには下記のようなことが考えられます。
1.人はそもそも不定期な時期に起こることには備えられない
2.重要性について認識できない、また、何とかならうだろうと思っている
3.どうしたら良いのか分からない、誰に聞けばいいか分からない
日々の仕事に追われ、重要性はあるものの緊急性がないとどうしても後回しになりがちです。また、事業承継の準備をしないとどうなるかという重要性についても知識不足で認識ができていない場合が多いです。更に、認識できたとしても、どうしたら良いのか分からないというのが多いのではないでしょうか。
経営者としての賞味期限
バリバリ働くことができるビジネスタイムは一般的には40年、長くても50年と言われます。これは年齢でいうと、いわゆる還暦になる60歳~70歳になり、現在一般的な定年の年齢および延長雇用された歳の年齢とほぼ同じになります。歳を取ると何かと新しいことにチャレンジすること、現在やっていることを変えることに消極的になるのではないでしょうか?※1 そうであれば、今が潮時ということも否めません。
また自分以外の周りを見ても、取引先や金融機関などに勤めている担当者はサラリーマンの方が多いのではないでしょうか。一般企業には、役職定年や定年退職があり、自分が歳を取るにつれ世代交代が行われ、せっかく培ってきた人脈も機能しなくなります。話し相手となる担当者が若い担当者に切り替わっていきますが、育ってきた世代が同じか近いということもあり、価値観や考え方など、若い担当者には若い経営者が良い面が多いのではないでしょうか。
※1 人により個人差がありますので特定するものではありません。
自分だけではない。与える影響の大きさ
事業承継がうまくいかなかったらどうなるのでしょうか?
経営者の家族はもちろん従業員は生計を失い、顧客は身動きが取れなくなり、取引先は売上を失い、支えてくれていた金融機関には迷惑が及び、地域社会に悪影響を与えるのは言うまでもありません。
与える影響の大きさを考え、早めに着手しましょう!
早期取り組みの必要性
これまでお伝えしたことから考えると、55歳~60歳になる年齢で、「引退をする時期」を決め、事業承継計画を立てて、5年~10年という時間をかけて計画的に事業承継を実現するのがベストではないでしょうか。
ただ、この「引退をする時期」を決めるというのは、そうそう簡単に決められることではないというのも現実です。今回、必要性をご認識していただけたと思いますので、ここからは、まず「手をつけてみる」ということからはじめていただけたらと思います。
事業承継の全体像
「ハッピーな事業承継」とは
まずハッピーな事業承継とはどんなものかを考えてみたいと思います。人それぞれ価値観が違いますが、一般的に望まれる理想像ということで考えてみました。
- 自社の理念や先代経営者の想いが繋がること
- 守るべきものを大切にしながら果敢に挑戦する後継者が育つこと
- 経営権が安定して後継者に移転されること
- 先代家族の争族対策ができており相続で揉めないこと
- 設備などが更新され他社と差別化できる技術が伝承される
- ビジネスモデルが確立されており利益が取れ、今後も成長が見込まれること
- 余計な確執や煩わしい人間関係を後継者に残さないこと
- 連帯保証人制度から脱却された状態になること
- 退職金がきちんと準備されて第二の人生に向けた準備ができること
結果的に、先代経営者もその家族も幸せで、後継者も先代経営者が築いたものを大切に守りながら、経営革新も同時に進めていける環境が整備され、伸び伸びと経営できる状態がそうと言えると思います。
「ハッピーではない事業承継」とは
では、ハッピーでない事業承継とは、どのようなものでしょうか?
「ハッピーな事業承継」が逆になった状況になるのではないか、と想像に難くありません。
経営者の自我がいつまでも残っていたり、逆に先代経営者がないがしろにされたり、後継者は先代経営者の手法を次々と否定し、肝心の儲かる仕組みが確立されていない状況です。設備は古いままで技術は古参の社員が暗黙知化し継承されず、若手従業員も定着しない状況です。
そして、株式はいつまでも先代経営者が保有し続け、連帯保証人の影響は家族にまで及びます。先代の家族と会社は混在したままで、後継者の経営権が不安定なまま事業承継が行われることになります。退職金も満足に取れないため、先代経営者はもとより、その家族も不幸な状態になります。
事業承継で引き継ぐ3つのもの
改めて、事業承継で引き継ぐものを経営資源という括りで考えてみたいと思います。
これからも事業を円滑に運営していくためには、先代経営者がこれまで培ってきたあらゆる経営資源を承継することが必要になります。承継する経営資源は、大きく「人(経営)」、「資産」、「知的資産」の3つの要素から構成されます。
-中小企業庁 「会社を未来につなげる10年先の会社を考えよう」から引用
事業承継を進めるうえで考えること
これらを引き継ぐには、それぞれに課題があり対策が必要となります。
主だった内容をそれぞれまとめますと下記の通りになります。
◆「人(経営)」→ 人と家族(人間関係の課題)
【家族・一族の心のケア】
- 後継者(親子)会談、家族会議の開催
- 遺言/死因贈与契約や遺言執行サービスの活用
- 創業オーナーのハッピーリタイア計画の立案/実行
【争族対策】
- 株式/財産分与
- 株式保有状況の把握
- 生前贈与の検討
- 相続紛争防止
- 会社法の活用
- 個人保証/担保の処理
【後継者対策】
- 後継者選定/育成
◆「資産」→ お金や税金(ハード面の課題)
【自社株式・税金対策】
- 経営承継円滑化法の活用
- 少数株主の排除/株式分散防止対策
- 経営権確保のための定款/規定/議事録の戦略的構築
- 生命保険/リースを組み合わせた納税資金対策
- 株式評価/評価減の対策
【廃業対策】
- 債務返済についての対策
- ソフトランディングによる清算手続き
◆「知的資産」→ 事業の中身(ソフト面の課題)
【事業承継対策・経営革新・第二創業】
- 事業承継計画の作成
- 社外ネットワーク/取引先/金融機関/従業員等の人的継承プラン検討
- ブランド/信用力/ノウハウ/儲ける仕組み等の知的資産の棚卸しと承継の仕組みづくり
- 経営革新計画の立案
【転業対策】
- 会社分割/営業譲渡によるM&A
- 不動産業への転換方法、資産有効活用の検討
事業承継では早期に取り組むことが大事
以上、事業承継おける課題を確認し、事業承継のの全体像を把握していただきました。
これだけいろいろな項目があり大変だと思われますが、それぞれの企業によって置かれた環境が違いますので、すべてが必要になるわけではありません。
ただ、項目によては早期に取り組まないと、あとあと大変になったり、対策を講じるのが難しくなる場合も想定されます。これらを総合すると、早期に着手することがいかに大事になるかが分かっていただけると思います。
また、これらの幅広い課題に対して取り組みができるのは、専門的に取り組みをしている事業承継士ならではとなりますので、まずはお近くの事業承継士までお気軽にご相談いただけたらと思います。
何から取り組むのか?
まず取りかかるのは、お金や税金(ハード面)から着手することをお勧めします。
何といっても事業承継には、お金がかかります。まず事業承継で必要なお金を明確にしていくと、それに対する課題が明らかになります。これらの課題を解決する解決策を考えることで、事業承継に必要な時間も明らかになり、これ以外の課題解決に充てられる時間も分かり、解決に向けてのスケジュールも立てられるようになります。
まずはお金や税金(ハード面)の情報を整理していきましょう。
早期に取り組むにあたっての質問
以下の質問に対して答えを考えてみてください。
今回は現経営者の方が、後継者がいらっしゃるという前提で質問を作成しています。
最初に、
「自分がどんなハッピーリタイアをしたいか」「会社が将来どのようになって欲しいか」
以上を想像したあとに答えてみてください。
①ご自分の年齢はいくつですか
歳
②後継者または後継者候補の年齢を記入してください。
歳
③ご自分の株式の所有割合はどのくらいですか?
株( %)
④後継者または後継者候補の株式の所有割合はどのくらいですか?
株( %)
⑤現在の株価とご自分の株式総額はいくらですか
円 × 株 = 円
⑥後継者または後継者候補の教育計画はありますか?教育予算はいくらですか?
円
⑦ご自分の役員退職金はいくらにする予定ですか?
円
⑧ご自分以外に役員退職金を支払う予定があれば、その金額はいくらですか?
円
⑨事業承継をする前に行う設備投資や人材獲得などにかかるコストは?
円
⑩事業承継をする前に会社に売却しておく不動産の時価は?
円
⑪会社に現経営者が個人的に貸し付けているお金があれば、その金額はいくらですか?
円
⑫事業承継または相続にあたって、反対する相続人のために用意するお金は?
円
⑬事業承継をサポートしてもらう事業承継士などの専門家への報酬は?
円
⑭最後の質問です。事業承継する日(経営者交代日)はいつですか?
年 月 日
いかがでしょうか?
すぐに書けるもの、書けないものなど、いろいろとあると思いますが、大まかでも結構です。
金額を書く欄にも大体の金額でいいので記入してください。
結果、思ったよりも事業承継にはお金がかかることが分かったのではないでしょうか。
これらに対して対策を実施していくのには、早く取りかかることが大事になります。
次回は、これらの項目を一つひとつを見ていき、確認したいと思います。
広島で事業承継および経営革新に関するご相談は、お気軽にさいきコンサルティングまでお問い合わせください。
それでは、また。